V お姉ちゃんとはリアトリスのことである。カトレアとリアトリスは双子の姉妹だ。 二卵生双生児と間違われる程に、二人の印象は違い、初見でも間違える事は殆どないが、実際は一卵性双生児だ。顔立ちを見れば二人はそっくり。しかし服装や性格は全然違った。 リアトリスは明るく活動的だが、カトレアは大人しく恥ずかしがりやだ。最も同じ格好をすれば二人を区別することは中々難しいだろう。 「一応、始末屋だしな」 始末屋レインドフとして有名な屋敷に侵入してくる輩は滅多にいないが、滅多にいないだけで可能性は零じゃない。恨みをあちらこちらから買っている。 ならば、カトレアが一人で屋敷にいるよりも圧倒的強さを誇るアークと一緒に行動した方が安全だとリアトリスは判断した。リアトリスだけじゃない、アークもそう判断したし、ヒースリアがその場にいても同じことをしただろう。 仕事がある時、アークは一人で動くか、ヒースリアを連れて歩く事が殆どで、その次にリアトリス。カトレアを連れて歩く事は滅多になかった。普段はヒースリアかリアトリスのどちらかが家にいるからだ。 数分後。夫――ジャリスとアゼリカが隣に並んでやってきた。 「んんん? そっちのお嬢さんは誰だ」 「こっちのお嬢さんはカトレアさ」 アークは不敵な笑みでジャリスに返答する。ジャリスは体格がよく、身長はアーク寄りも高い。鍛え上げられた筋肉は服越しからでもわかる。日焼けした肌が、たくましさに拍車をかけるようだ。 「さて、俺はアーク・レインドフ。お前を始末するように頼まれた」 「……妻にか」 「さぁな」 明確に応えはしないが、アゼリカが連れてきたことは明白。 妻に向かって攻撃することはない。アークはニヤリと含み笑いをする。 鍛え上げられた拳はコンクリートを破壊する。 「うおっ、凄いな。カトレア安全な場所まで」 「うん」 アークに――ジャリスに背を向けて、カトレアは逃げる。途中でコンクリートの破片に躓きそうになるが、なんとかバランスを保ち、邪魔にならない位置へ。 隣にはアゼリカがいた。カトレアと一緒に逃げたのだろう。相変わらずアゼリアの瞳は無邪気な子供のように輝いている。 アークは軽く周囲を見渡した後、再びコンクリートの破片を武器として扱うことにした。 破片だが、鋭く刃にも似たように扱う。二度目、三度目と成れば最初よりも手慣れたものだ。 体型に似合わない素早いフットワークで攻撃を繰り出すジャリス相手にアークは軽々と交わす。 素早く威力の高い拳だが、アークからすれば交わすのは容易い。 最も一撃でもまともに食らえばアークとてただでは済まない。しかし当たるようなヘマをアークはやらかさない。ジャリスの攻撃を見きる事が容易かったからだ。アークの目にはスローモーションのように映る。 「ぐあああ、ちょこまかとうざったい!!」 怒声を上げながらジャリスは拳を勢いよく当てようとする――が、威力を重視した大ぶりな拳は隙が出来やすい。大ぶりな攻撃を前にしてアークが動く。コンクリートの破片でジャリスを袈裟切りする。 血しぶきがコンクリートを赤く染め上げる。重心をおさる力を無くし、後方へ倒れる。 「貴方!!」 アゼリカが夫の元へ近づこうとするのをカトレアは止めない。 「やっぱり……」 カトレアは静かに呟く。 「貴方、貴方」 もう息はしていないジャリスへ向かってアゼリカは泣き叫ぶ。アークは淡々とした瞳でその様子を見ている。 「やっぱか」 先刻のカトレアと同じ台詞をアークは呟く。その手にコンクリートの破片はない。 アゼリカがアークを睨む。涙を必死にこらえようとして叶わなかったそれが頬を濡らす。 [*前] | [次#] TOP |