零の旋律 | ナノ

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 カルミアが部屋に戻ると、当然ながら、まだ誰もいなかった。ヴィオラをベッドへ寝かせる。血が滲んだ包帯を取りかえる作業をしているとアークが戻ってきた。相変わらず傷一、服に汚れ一つない。

「お帰り」
「ただいま。リアトリスは?」
「買い物中」
「そっか。ヴィオラの怪我は?」
「悪化中」
「そりゃ、動いたら悪化するよな。怱々、リィハは恐らく三日できてくれると思うけど。どうする?」

 最も此処でヴィオラが断ればハイリは無駄足を踏むことになる。

「……頼んだ」

 ヴィオラとしては一刻も早く、ヴァイオレットとアネモネの存在を伝えたい人がいた。しかし今の怪我で動いても何も出来ないし心配をかけるだけだと判断し、治癒術師に怪我を治療してもらうことを選んだ。

「了解」
「カルミアはどうするんだ? あのローブの人物、一目でお前だってわかったみたいだけど」
「……それは昔の呼び名の方だろ? まぁ別に“カルミア”をそのまま酒場でも使っているからばれるだろうけど、ばれてから考える」
「そっか」

 カルミアは何時までもスーツ姿でいるのが落ち着かないのか、普段の姿に着替え始める。緩くウェーブのついた髪をほどくと、仄かに甘い香りが漂う。

「私は構わないけど、ヴィオラは此処に泊らせておく?」

 服装を着替えた所で口調も普段使用しているのに戻す。アークにとっても馴染みある口調で違和感が消え去った。

「そうだな、それが一番安全だ。俺とリアは宿でもとってリィハがくるまでのんびりするさ」
「今さらだけど、リィハってのは?」
「リィハはあだ名で本名はハイリ・ユート。治癒術師としての腕前はレインドフの保証付きだ」
「腕前は最初から疑っていないわよ。じゃあご飯でも用意してくるわ、今日はどうせ店じまいだし」

 そう言ってカルミアは階段を下りていった。

「依頼は一応あれで完了と受け取っていいのか?」
「あぁ。だが、悪いけど治癒術師が来る前では継続ってことにしておいてもらえるか? 追加料金くらいは払うから」
「俺は別に依頼をこなせればそれでいいし、ヴィオラから頂いた金額ないで充分間に合っている。しいて言うならリィハの治療費か? 俺が出してもいいけど」
「いや、自分の怪我だ、自分で払う。いくらだ?」
「覚悟しとけ」
「へ?」

 呆けるヴィオラに、悪人にふさわしい笑みをアークは浮かべる。

「腕前は確かだけど、あいつの治療費ぼったくりだから」
「……覚悟しとく。つーかお前が言うくらいってことは、どう考えても今の手持ちじゃ足りないよな……」

 ヴィオラは必要とあれば詐欺を働いて金銭をだまし取っていたが故に、必要がない時は必要限しか金銭を持ち歩いていなかった。

「その時は貸してやる」

 やはり悪人にふさわしい笑みを浮かべるアークであった。


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