零の旋律 | ナノ

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「裏切るなら裏切ればいいし、裏切って俺を殺そうとしてくるのなら殺すだけだろ」

 簡単に、それがさも事実であるように語る。何の疑問も抱くことなく、それが心理であるように。

「いや、そうなんだけど、語るのは簡単でも人の心理的には……」
「別に、何とも思わないだろ。第一そんな風に思うほどに付き合いが長いわけじゃないんだからな」

 数回出会って、そして依頼を受けたに過ぎない。例え親しい相手だったとしても、その人物を殺してくれと依頼を受けたら、アークはその人物を殺すだろう。レインドフは私情を仕事には持ち込まない。

「例え、付き合いが短くても裏切りって結構心に痛むと思うんだけどなぁ……」
「裏切りなんて日常茶飯事だ。そんなこと気にしていたらきりがないだろ」

 答えたのはアークではないカルミアだ。

「俺はそこまで裏切られたことないけど」

 アークは苦笑する。始末屋であるアークは依頼人に裏切られることは滅多にない。けれど、カルミアが生きてきた場所は別だった。

「そりゃ、お前が裏であり表でもある中途半端な場所にいるからだろ」
「それもそうなんだけどな」
「裏切りや嘘や偽りなんてもんは別に気にしていたらきりがない。誰しもが裏切り、誰もが嘘をつくんだから。嘘もつかず、裏切りもしない人物なんていないだろ」

 カルミアが冷笑しながら断言をする。それがカルミアの持論だ。
 ヴァイオレットは半目になって呆れる。それと同時に理解する。この名前も知らない二人は異様だと。他の――大衆とは違う異色の存在。

「……なんか、なんて言えばいいか思い浮かばないわ。そんな思考回路の奴と出会ったの初めてだし」
「へー、出会っていても不思議じゃない気がしたが」
「俺はそこまで性質悪くねぇよ。せいぜい――物語を面白くするためなら態と相手を生かす程度だ」
「それも充分性質悪いだろ」

 アークの言葉に、そうだろうかとヴァイオレットは首を軽く傾げた。無自覚かよとアークは内心突っ込みを入れる。

「それにしても、この研究所を襲ったところで、目ぼしい物になんて出会えないと思うが」
「それは俺の関与するところじゃない」
「あっそ。なら、例えば、魔物が人工的に作られていたとして、しかもそれが人の手だったら驚くか?」
「いいや、別に」
「魔族が魔物を作り出したとしたら?」
「それも特には。第一魔物ってのは人族の慣れの果てなんだろ?」
「……そこまで知っていたのか」

 ヴァイオレットは嘆息する。

「へぇ、そうだったのか」

 事実を知っていれば驚くはずがないかとヴァイオレットは納得しかけた時、事実を知っていたのはアークだけで、カルミアはそれを知らなかったことを知る。それなのに、多少は驚いても何も思っていないことが伝わってきた。身震いをしたくなる、程に――恐怖を感じ取った。恐怖を少しでも拡散させようと話題を続ける。


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