零の旋律 | ナノ

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 カルミアとアークは人の気配を――ただの研究者とは思えないのを感じ、構える。最もアークが構えたのは机だったが。
 奥へ進む扉が開く。アークは一体どれだけ奥に繋がっているのだろうかと考える。扉からは気だるそうな、研究者風情の人物が姿を現した。眼光は鋭いのに、猫背気味の身体や、緩い服装が相手に気だるい印象を与える。

「今度は何だよ、派手な音が聞こえたかと思ったら」
 
 十中八九アークのせいだ。

「なんで机が散乱しているんだよ」

 九分九厘アークが原因だ。

「はぁだるっ……」

 その人物は改造してある拳銃を取り出し、焦点は机を構えている人物へ向ける。

「あんた、名前は?」

 アークの瞳に好奇心が宿る。好奇心が宿りながらも左手は資料を手放していないのは仕事を忘れていないからだ。

「なんでそれを答える必要がある?」
「興味本意だ」

 アークの断言に、顔を顰めてから

「ヴァイオレットだ」

 答える。名前を聞いた瞬間、アークの口元が弧を描く。最初からヴァイオレットである可能性が高いと判断はしていた、しかし名前を聞くまでは確実とは言えない故に、アークは興味本意で名前を問うた。
 ヴァイオレットは恐らく研究者でありながら、現れた時の身のこなしが研究者らしくなかった。

「そうか」
「あんたは? こっちが教えたのにあんたは教えないってのは無しな」
「悪いな、教えるつもりはないんで、知りたいなら無理矢理ききだしてくれ」

 アークは普段、名前を問われれば答える。けれど今回はそうしなかった。仕事、だからだ。最も相手がアーク・レインドフの顔に見覚えがあったのなら別だ。しかし、ヴァイオレットはアーク・レインドフを知らなかった。

「そうか。所で――あのレスの魔術師を助けたのはあんたか?」
「レス? 魔術師?」

 その単語が誰を指しているか、察しのいいアークとカルミアは気がついたが、それでもあえて素知らぬふりをした。最もレスや魔術師の単語に聞き覚えはない。特に『魔術師』は初耳だ。

「……青とか紫とか、水色みたいな頭をしたやつだ」
「あぁ、助けたよ」

 具体例を言われたので、今度は助けたとアークは答えた。

「レスや魔術師のことは知らなくても……あいつのことは知っている。なら一方的に協力をさせられているだけか……雇っただけといってしたし。最も、意図的に隠蔽はしているのだろうが……」

 後半は独り言だった。アークとカルミアの耳にも届いたが、正直なところヴァイオレットの会話は理解できない。

「まぁ、何も知らないならいいけど、一つだけ教えておいてやるよ。あんたら裏切られているよ」
「裏切り? 別に構わないけど」
「え、そうなの?」

 あっさりと、本当に構わないと思っている言葉に、ヴァイオレットは危うく引き金を引くところだった。
 まだ会話は続いているのだ、情報をもう少し引き出してからでも殺すのは遅くない。


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