零の旋律 | ナノ

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 警備員や研究者が出這入りを簡単にするためか、それともアークが結界を気にせず進んだからか、どちらにしろ研究所に結界はなくなっていた。アークはそれを幸運だとも何も思わずに、カルミアとともに研究所内へ堂々と侵入した。最初ヴィオラと訪れた時、アークは階段を上がったが、その先には何もなかった。だから、ヴィオラが進んだ方向へ行く。警備員や研究者が慌ただしく動いていた――そして、アークとカルミア、二人の侵入者を発見すると、武器を手に襲いかかってきた。アークはその辺にあった机を投げる。

「派手な音立てないで進むとかないのかよ」
「俺は始末屋だ、暗殺者じゃない」
「暗殺者は静かに殺すって法則はないぞ。まぁ――無音なら、別か」
「そういうことだ」

 机が飛び交う。勿論一方的にだ。カルミアはアークに戦闘を任せて周囲を観察する。不気味なほど何かを研究した後がない。
 しかし、それも扉を数個進めば変わる。通路に――何か鋭利な刃物で檻に入れられた魔物が殺されていた。
 ヴィオラが殺害した後だが、その事実をアークは知らないためカルミアに説明は出来ない。他のフロアよりこの空間はひんやりと空気が冷えている気がした。それもまたヴィオラが氷の魔導を使った後だとは知らないが故に、空調の問題だろうとアークは差して気にも留めない。最もヴィオラの仕業だと知っていてもアークの態度は何一つ変わらないだろうが。魔物の死体を通り過ぎ、扉を開ける。ヴィオラが倒れていた場所だ。そこには誰もいないし何もない。ただ奥に扉がある。

「此処でヴィオラが傷だらけになって倒れていた」

 アークが知っていることだけを説明する。ヴァイオレットがいるだろうかと僅かに期待していたアークだがこの場にはいなかった。
 さらに奥へ進むと、白衣をきた研究者たちが手に大量の資料を持ち、慌ただしく撤退の準備をしている所だった。恐らくは重要資料だけを持ち出して――万が一侵入者の目的がそれだったとしても奪われないようにするためだろう、しかし時はすでに遅い。膨大過ぎる資料は持ち出しに時間がかかるものだ。最も彼らが持っているのよりさらに重要機密はすでに持ち出された後だろうがアークには関係ない。
 すたすたと歩き机を片手で持ち上げてそのまま研究者たちに向かって無言で投げた。 戦闘訓練を積んでいない研究者が、アークの攻撃を交わせるはずもなく、無残にも床に倒れる。
 立っているのがアークとカルミアだけになった時、カルミアは手短にいる研究者から資料を奪い取り、パラパラと眺める。

「わかるか?」
「専門用語ばかりで何がいいたいのかは分からないな」
「畑違いだもんなぁ」
「俺よりまだ、レインドフの方が詳しいだろう」

 資料を手渡しされアークも資料を読むが何が書いてあるのか理解できなかった。

「ってか、そもそも是暗号化されていないか?」
「解読からって時間がかかって面倒だな」
「知り合いに渡せば解読くらいはしてくれそうだけど」
「知り合い? そんな知り合いがお前にいたのか」
「カサネ・アザレア」
「……何時から策士と知り合いになっているんだよ」

 カルミアは呆れると同時に、アークがカサネと知り合いになった経緯に目星をつけていた。悪い噂が陰で流れている策士ことカサネ・アザレアのことだ。アークに邪魔な人物の始末でも依頼をしたのだろう。
 アークは一応持って帰るかとコートの内ポケットに資料をしまった。最も厳選出来るわけではないので適当に選んだ資料だから、その資料を解読したとしても重要なことが書いてあるとは限らない。

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