零の旋律 | ナノ

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「てめぇえ! なにしやがるんだ!!」
「ほら、暴れたじゃないですかー」

 リアトリスは楽しそうに一回転してから手鏡をもとあった場所に仕舞う。

「ひ、ひとの頭をかっ勝手にツインテールにするんじゃねぇよ!」
「似合っていますよ。気持ち悪いくらいに」
「気持ち悪いんじゃねぇかよ!」
「これで街を出歩けば注目度抜群ですね!」
「いろんな意味でな!」

 声を張り上げ過ぎて傷口が痛んだがヴィオラの思考はそれよりもツインテールをどうやって解くかにあった。リアトリスしかいないとはいえ、万が一誰かが――ホクシアとかにツインテールを見られたら穴に入りたくなる。

「それにしても――ヴィオラはどうして怪我をしたんですか?」

 露骨にしかしその話になることは自然である。

「……」
「答えたくないなら興味はないですけどもねー」
「一つ、いいか」
「何ですかー?」
「お前は魔石を体内へ入れていないんだよな? あの時、魔物が人のなれの果てだと知った時驚きはしても恐怖は感じていなかっただろお前は」
「えぇ、入れていませんよ。でも仮に入れていたとしても――」
「いたとしても――?」
「それは死んだ後の話じゃないですか」

 あっけからんとした言葉に、ヴィオラは空いた口がふさがらなかった。
 ヴィオラやリアトリスは知らないが同じような言葉を、アークはラディカルに向けて言っていた。

「今から恐怖していたって仕方ありません。なるようにしかならないのですから。魔物になるのが嫌なのでしたら、けれどそれが避けられない定めなのだとしたら――私は死ぬ前に主でもヒースでもいいですけど、私を殺しておいてくださいって遺言を残しておきますね」
「その手があったか」

 ヴィオラは苦笑する。それがリアトリスらしい言葉かどうかは別として、だ。

「そうですよー、それが一番じゃないですか。始末屋アーク・レインドフ、それに無音がいれば間違いなしなんですからー」
「無音?」
「ヒースの、ヒースがアークに雇われる前の通り名見たいなものですよ。ヒースの戦闘を見る機会があれば、その意味がわかりますよ」

 リアトリスが笑みを浮かべる、それは本当に楽しいのではなくて、笑みを浮かべる場面だから笑みを浮かべた、そんな雰囲気を感じさせる。

「……なぁ、研究所まで俺はもう一回行く必要がある、解け」
「駄目ですよー怪我人が行っても足手まとい以下ですよ?」
「足手まといになるのならばそれでもいい、だから解け」
「仕方ないですね」

 リアトリスは観念したのかヴィオラの縄を解く。ヴィオラが自由になった手でまず行ったのはツインテールを解くことだ。血まみれのコートを着て歩くことはできないと、勝手にカルミアのクローゼットを開ける。その中で自分できても問題ないような服を――且つ、あまり女物に見えないのを選んで羽織る。

「では行きましょうか―」

 リアトリスが扉の前で待っている。キョトンとするヴィオラにリアトリスは首を傾げる。

「ヴィオラだけで行って依頼人が死んだら、それはそれで主を虐めるネタにもなりますが、私のミスだとおもわれるのは癪ですからね、しかたありません、同行して差し上げますよ」
「守ってやる余裕ねぇぞ?」
「構まわないですよ。どうせ道中に敵なんていないのですから」

 それはアーク・レインドフの仕事中毒および戦闘狂への信頼か。


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