零の旋律 | ナノ

V


 研究所の前には、前回訪れた時とは違い、警備員が並んでいる。その手には銃や剣があり、完璧武装をしていて、近づく者は問答無用で排除する意思を感じる。

「物騒だな」

 カルミアは他人事のように呟く。

「さてと、仕事仕事」

 アークは何かないか一周する。一番手っ取り早いのは雪だった。

「……雪でいいか」

 雪を武器として扱ったことがないアークだったが、とりあえず雪を掌に救う。手袋からひんやりとした冷たさが伝わってくる。

「もっと武器らしいの選べよ。お前はそこにいろ」

 いくらアーク・レインドフだからといって雪で全員を一撃で昏倒できるわけではない。雪玉にでもすれば投擲が出来るし、しっかり固めればそこそこの威力を発揮するだろうが、一々そんなことをすれば時間を取られるだけだ。雪すらも武器にしようとするアークに、呆れながら雪を武器にするよりも自分が行動した方が早いと、カルミアは一歩足を踏み出すと同時に、カルミアの影が液体のように蠢く。
 つるんと全てを飲みこみそうなそれはだがしかし影からは出ない。カルミアは一瞬で姿が消える。まるで影に飲み込まれたようだ――そして、次の瞬間にはカルミアは警備員の背後に立っていた。そして、そのまま一瞬で警備員全員を昏倒させる。姿を見られる前に相手を昏倒させた以上、相手が証言することも恐らくは叶わない。何せ何が起きたのか理解出来る人物は誰一人としていないだろう。アークは悠々と歩く。

「殺さないんだ」

 何気ない一言。カルミアの視線が一瞬鋭くなる。

「アルベルズの時は簡単に殺していたのに珍しいな」
「あの時はあの時だ、昏倒させるだけでも問題はない」
「まぁ、俺は別にどっちでもいいんだけどな」
「なら、一々気にするな」

 アークは最初侵入した扉を目指して奥へ進む。そのあとにカルミアも続く。

+++
 アークとカルミアが研究所へ侵入した頃合いに、ヴィオラは目を覚ました。
 そして身動きが出来ないことに気がつく。身体の傷が痛むからではない、何かで縛られている。上半身は辛うじて起こせるが、それ以上は全く動かなかった。いくら力を込めようとも、びくともしない。よくよく見なくても――ヴィオラの身体には厳重にシーツが縄となり縛られていた。解こうとするが、手もしっかり縛られていて動かすことが出来ない。

「あー、起きたのですか?」

 此処は何処だ、と確認しようとする前に元気な声が聞こえる。声のする方向を見るまでもない、リアトリスだ。レインドフ家のメイドらしくないメイドがアップルパイを頬張っている。

「外せ」
「嫌です」
「外せ! ってかどんな縛り方をしたんだ!? なんで解けないんだよ」
「ふふふ、必殺技ですから」
「いらねぇよ、そんな必殺技。いいから外せ!」
「断ります―。外したら暴れそうですから」
「暴れる? なんでだよ」

 リアトリスはアップルパイを食べきってから、手鏡を勝手に拝借し、それをヴィオラに手渡せないのでヴィオラが見える位置に持っていく。ヴィオラが怒りでわなわなと震えだした。


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