零の旋律 | ナノ

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「こっちが素だ。違和感あるとかいうな」
「違和感があるものはあるのだから仕方ないだろう」
「……そうかよ。単刀直入に用件を言えば、警備の依頼が来るかもしれないから、依頼を受けるな。受けるなというか姿を見せるな」
「成程。あのけたたましい警報を鳴らしたのはお前らか」

 すぐにカルミアの言いたいことをジギタリスは察する。そうでなければ、態々カルミアは自分たちの元を訪れないと。お互いに帝国にいることも何処で何をしているのかも知っていた。調べようと思っていたわけではない、自然と耳に入ってきただけだ。カルミアもジギタリスも職業柄人と接することが多かったからだ。

「お前らかって、やったのはアークだけでその頃俺は酒場にいたんだけどな」
「そうか。しかし再び行こうとするとは随分だな。酔狂か?」
「あの研究所の噂を何かお前は知らないか?」

 酒場よりも、ジギタリスは警備や警護をやっている。そちらの方が機密事項関連については詳しいのでは――特にジギタリスならば知っていても不思議ではないとアークは問う。

「詳しくは知らないし、知っていても教えるわけにはいかないだろう、それこそ私の信用問題にかかわる。私はリヴェルアに戻るつもりはないのでな、此処にいられなくなると色々と面倒だ」
「カルミアにも同じことを言われたよ」

 最もカルミア以上にジギタリスは戻れる場所が少ないことをアークは承知済みだ。特に反乱がおきたアルベルズ王国には元将軍であったジギタリスは戻れないだろう。仮に戻ったとしてもそれで命を奪われることはないだろうが、何せジギタリスに敵う腕前の人物はアルベルズにはいない。

「ただ、一つだけ。私は遠目で見ただけだが、研究者――確か名はヴァイオレットだったか、かなりのやり手だ。武力方面でな」
「ヴァイオレットか」

 響きが何処となくヴィオラと似ているなとアークは感じる。

「あぁ。戦闘狂であるお前なら戦ってみたくなる相手さ」
「流石、相手の力量を正確に測れる瞳、だこと」

 アークは感心すると同時に、ジギタリスの言葉通りヴァイオレットなる人物と戦ってみたくなった。しかし、それは二の次だ。本来の目的はヴィオラの依頼を達成することになる。
 戦闘狂であるアークだが、仕事を放棄してまで戦闘に走るわけではない。なんせアーク・レインドフは戦闘狂であると同時に仕事中毒なのだ。

「それじゃあ、失礼する」

 これ以上長居は無用だとアークは判断し、踵を返した時、ジギタリスが呼びとめる。

「そうだ、一つ。お前が研究所に侵入しようとするのは蒼にも紫にも水色にも見える髪色の青年が原因か?」
「……何故だ」
「以前、研究所を観察している人物がいただけだ」
「そっか」
「あぁ。まぁ気にするな」

 アークはその人物が誰だかわかっていたが、依頼人のことを態々ジギタリスに告げる必要はないと、何も答えなかった。ジギタリスも二つの出来事を重なり会わせただけで、追及するつもりも好奇心もない。
 アークが答えないのならば、それで構わなかった。今度こそアークとカルミアはジギタリスの屋敷を後にした。


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