零の旋律 | ナノ

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「流石、カルミアが選んだ闇医者だ」
「普段は闇医者じゃないわよ。普通に医者をやっているんだけどもね、まぁお金をちらつかせば簡単に引き込めるタイプではあるわ」
「じゃあ、俺は再び研究所に行く、ヴィオラが目覚めたら面倒だろうからリア見張っていてくれ」
「縛ってもいいですか?」

 アークの言葉に即答するリアトリスだったが、返答が聊かおかしい。
 カルミアは笑いをこらえているようだった。

「怪我人を縛っちゃダメでしょ」
「えーでも、ヴィオラ目を覚ましたら絶対暴れますですよ? だったら最初から逃げられないように縛っておいた方が手っ取り早いです。それに縄で縛るだけですから安心して下さいよ」

 縄で縛るのの何処が安全かカルミアは質問するか悩んだが、止めた。答えは恐らくアークを縛るのよりは優しく縛るからです、と返ってくる想像がついたからだ。

「あ、そうだカルミア。あの医者に払った代金はいくらだ?」
「いいわよ、それくらい」
「太っ腹ですねー」
「じゃあお言葉に甘えて。じゃあな」
「私はついていかなくてもいいのかしら?」

 アークは再び研究所へ向かおうとしたが、カルミアの声がそれを止める。

「ついてきてくれるなら有難いが、下手したら帝国にいられなくなるから嫌なんじゃなかったのか?」
「諦めたわよ、そんなことは。第一、何があるのか少しばかり興味が湧いちゃったからね」
「……なら、カルミア変装でもしたらどうだ? 多分普段の印象が強すぎてばれないと思うぞ」

 アークの申し出に、それもそうねとカルミアは頷いてから黒いクローゼットを開ける。殆どが女性物の服装だったが、その中には数着男性用の服装も混じっていた。その中で唯一スーツのような形状をしている服を一式取り出し、着替える。その間リアトリスはヴィオラの髪の毛をツインテールにして遊んでいた。本人が鏡を見たらリアトリスに殴りかかりそうだ。
 カルミアは黒の上下スーツに似た形の服を着、中のシャツは深い紫色だ。シルバーのネックレスを付け、胸ポケットには桜の形をした魔石をブローチとして付ける。緩くウェーブのかかった髪を最後にポニーテールに纏める。

「そうしてみると別人だ」

 アークの言葉に着替えが終わったと判断したリアトリスが振り向いて固まった。

「どちら様でしょーか」
「……酷くないか」

 口調も素に戻っていた。流石にこの格好の時に口調が女言葉だとリアトリスとしても反応に困る気がしたのでその辺は有難かったが、勿論言葉には出さない。

「是が私のデフォルトですから素直に諦めて下さい―。では私はこれからヴィオラをツインテールにしたのを知られて怒り心頭になられる前に縄で縛るんで、縄を下さい」

 手を出して縄を請求するが、カルミアの自宅は縄を常備していない。リアトリスは諦めてシーツを縄状にしてヴィオラを縛った。勿論ツインテールは解いていない。
 アークはツインテールの存在を見なかったことにしてカルミアとともに研究施設へ向かうため、外へ出る。吹雪とまではいかないが、先刻より雪は強くなっている。周囲が慌ただしいのは研究施設に入った不法侵入者を捕えるためだろう。そんな中、不法侵入者のアークは堂々と道を歩く。


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