零の旋律 | ナノ

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「リア、手伝え」
「主に命令されるとやる気なくなりますけど、まぁシャーロアのお兄ちゃんを放っておくわけにはいきませんね、仕方ないので主のお手伝いして差し上げますよ、感謝して下さい」
「はいはい」
「にしても、本当に酷い怪我ですよねー。ヴィオラってシャーロアからの話だと、シャーロアに護身術を教えたのはヴィオラで、ヴィオラの方がシャーロアよりかなり強いって話でしたし、実際ある程度強そうでしたけど」

 情報屋シャーロアに会いに行った時、リアトリスはシャーロアの体術と氷の魔導は兄であるヴィオラに教えてもらったものだということを聞いていた。それ故に、ヴィオラも体術と氷の魔導は得意なのだと。最もヴィオラはそれよりもトランプを武器として戦う手法を得意としているとも言っていた。
 ヴィオラからしたら、勝手に人の戦法をばらすなといった心境になるのだろうが、その本人は今、意識がない。

「ん、あぁ。ヴィオラは強いし、気配を隠したら、リーシェ王子でも気がつかないくらいだったしなぁ」
「あの王子様ですか、だとしたらやっぱりヴィオラを倒せるくらい強い人が研究所にいるってことですよね」
「是非、戦いたいな」

 アークの即答にリアトリスは相変わらずだと笑う。

「依頼は完了したんですか?」
「いいや、完了していないが、依頼人に死なれると意味ないし、途中で出てきた」
「それで警報がけたたましくなったんですねー最初はなかったですのに」
「最初はヴィオラが魔導で結界を無効化していた」
「……帝国直轄の研究所の、恐らくは最上級の結界術を無効化出来るって、並大抵の術師じゃ出来ませんですよね。主には逆立ちしても出来ませんね―」
「逆立ちしたら難易度が若干上がっている気もするけどな」
「まぁそうですけどもー。じゃあ主はヴィオラが復活したらまた仕事へ?」
「いや、治る前に行く」
「足手まといは不要ですかー?」
「足手まといになるかは別として、どっちにしろ数日で治る怪我じゃないだろ。リィハが来るまでにだって時間かかるしな」

 リアトリスは目を丸くして驚いていた。アークは何故だと目線で問いかける。

「だって、主が親切心を発揮していることがあり得なさ過ぎて天変地異のまいぶれかと思ってしまいました」
「お前は俺が怪我したり、親切心があったりすると大仰に驚きすぎると思うんだが」
「私に限ったことじゃありませんよーリィハだってヒースだってみーんな驚きます」
「みーんなの幅が狭いぞ」
「主、知っている人は多くても知り合いはそんなにいないじゃないですか」
「……否定はしないけどな」

 リアトリスとアークが普段の会話を開始してから暫くしてカルミアが戻ってきた。中年の将来髪の毛が心配そうな印象を抱かせる白衣の男が一緒だ。

「そこで横になっている彼を見てもらいたいわ、宜しくね」
「あぁ、任せろ」

 既に報酬の話はついているのか、男はヴィオラの様態を見ていく。そしてアークとリアトリスが巻いた包帯をはがして、新しく消毒や怪我の治療を適切に行っていく。治癒術師のハイリには及ばないが、それでも腕のいい医者であることは確かだった。暫くして診察が終わると、男は黙って何も見なかったと言ってから退室した。


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