零の旋律 | ナノ

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 アークは依頼をこのまま続行するかどうか悩んだが、依頼人に死なれては元も子もないと、一旦研究所から引き返す道を選んだ。アークは結界をすり抜けるなんて真似をするつもりは最初からないので、結界を通り抜けた瞬間けたたましい警報が鳴り響いたが、聞こえなかったふりをした。
 予め取っておいた宿に行くかどうかも悩んで――カルミアがいるだろう酒場に行くことにした。勿論ヴィオラの姿を見せるわけにはいかないので、ヴィオラを担いだまま人目につかないように移動する。
 カルミアがいる酒場では、警報が鳴ったのを理由にカルミアが安全のため客を店から避難させている最中だった。都合がいい――と判断しかけて、カルミアが何かあったと踏んで態と店を蛻の殻状態にしてくれることに気がつき、そのまま人がいなくなるのを待った。

「もういいわよ、どうせいるんでしょ」

 カルミアは雪に慣れているのか、寒そうなそぶりを見せず、アークが姿を見せる前に声をかける。アークは屋根から飛び降り、雪の上に着地する。

「流石」
「……何をやらかしたのよ」
「知らん。ヴィオラと別行動していたんだけど、俺が進んだ場所の敵を一通り片付けてヴィオラの元へ戻ったらこんなんになってた」
「……二階へあがって、二階は私の自室だから」
「そうする」
「リアトリスもそこで寛いでいるわよ」
「相変わらずだな―」

 酒場の二階にあるカルミアの部屋は、普段の女口調や女物の服を着ている姿を似つかわしくないくらいシンプルな部屋だった。モノクロで揃えられた部屋は聊か殺風景にも感じる。
 カルミアのベッドの上でリアトリスがくつろいでいたが、ヴィオラを横にさせるためにリアトリスにどけるように言うと、横になるのがアークじゃないからか素直にどいた。

「ほわー、何があったんですかー?」
「さっきカルミアにも言ったが何があったかは知らない。カルミア、治癒術師か医者知らないか? 俺の知り合いを呼ぶにしてもリヴェルアだからな」
「悪いけど、裏関連の闇医者も治癒術師も知らないわ。リヴェルアならともかく、此処とアルベルズじゃ、私酒場の店員なんだから。あぁ、でも此処だと店主も兼用しているけど」
「じゃあ、やっぱリィハに来てもらうか」
「それまでの繋ぎになりそうな医者や治癒術師くらいなら紹介出来るとは思うわよ。金銭を積めば黙っている人なんて、そこらじゅうにいるもの」
「じゃあ、頼んだ」
「少し待っていなさい」

 カルミアは一旦席を外す。カルミアが医者か治癒術師を連れてくるとは言え、それまで出血がひどいヴィオラを放置しておくわけにはいかない。カルミアが置いていった包帯で応急処置を施すことにした。


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