零の旋律 | ナノ

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「数百年以上も間、干渉出来なかったお前らが何故今さら」
「確かにお前たちレス一族が封印をしたせいで干渉は出来なかった。けれど――封印の綻びが緩んだ瞬間があっただろ? その隙に潜り込んだに過ぎない」
「……そういうことか」

 ヴィオラは合点がいった。『魔術師』とヴィオラは呼ばれ、そして同じ『魔術師』であるヴァイオレットが何故、この『世界』にいるのかを。けれど、ヴィオラは口で語ることはしない。『魔術師』なんて存在は、公になるべきではない、此処で始末すればいいだけの話だと判断した。
 ヴィオラは氷属性の魔導――魔術を発動する。全てを凍てつかすような冷気がヴィオラの右手を纏い、無数の氷柱が姿を現す。氷柱は男――ヴァイオレットに向かっていく。ヴァイオレットは慌てた様子なく、結界術である魔法陣が前方に出現し、全てを弾く。銃口をヴィオラへ向けて放つ。ヴィオラは避けようとしたが、その瞬間身体が鎖に捕らわれたように動けなく、膝に命中した。

「つっが……」

 苦悶の声を上げる。続けて銃弾が両肩に命中して、起きていられずヴィオラは床に倒れる。

「あぁ、あんたは殺さないよ。最も死んだらそれまでだろうけど――あんたらレスがどれ程生きているのか、知らないけどさ、レスは真実を知っているんだからさ、生きて彼らに知らせてもらわないと困るし――まぁないならないでも構わないけど。どう舞台が動くのか、それはそれで興味があるしな」
「……帝国は、帝王は魔術師の存在を知った上で、魔術師へ加担したのか……?」
「ほんと、厄介だな。攻撃すればする度、生身に貫くたびに俺の記憶が覗かれるわけか……不愉快だ」

 ヴァイオレットはヴィオラへ近づき――生身ではない部分を思いっきり蹴る。

「でも、生身じゃない部分ならいいんだろ?」
「はっ性悪」
「それはあんただろ、俺はまだまだましな方さ」

 数度蹴ろうとも、ヴィオラの顔が苦悶に歪もうとも、それでもヴィオラの瞳に恐怖は浮かばない。

「あんた、頑丈だな」
「はっ、そりゃどうも」

 ヴァイオレットが再び蹴ろうとした時――冷気を感じ、ヴァイオレットは慌てて後方へ下がる。先ほどまでいた場所が氷で満たされていた。

「残念、氷漬けにしてやろうと思ったのに」

 痛みを堪え――ヴィオラは立ち上がる。血は流れない。出血部分を見てみると、氷で傷口が無理矢理塞がれていた。

「油断大敵だ、知っているか? レス一族が最も効果的に記憶を覗き見る方法」

 不敵に微笑むその笑みは、圧倒的不利な状況を感じさせない。

「っち、そういうことか。まぁどの道――その怪我じゃ、上にいったお仲間さんが助けに来てくれない限り死ぬだろう」
「……あいつが助けてくれるってイメージ湧かないな、ただ雇っただけだし」
「ならご愁傷様」
「まぁ、だからといって俺はくたばるつもりは全くないさ。第一、アンタの存在を伝えるべき人がいるしな」
「あんまり会話していると、また記憶を盗みとられそうだ」

 ヴァイオレットはホルスターに拳銃を仕舞い、さらに奥の部屋へと消えていった。ヴィオラは無理して立っていた限界が来たのか、傍に倒れる。

「ざけんな……何だよ、あいつ」

 どれくらい床に倒れていただろうか、ひょっとしたら一分にも満たないのかもしれないが、時間感覚が今のヴィオラには判然としなかった。

「生きているか―?」
「あ、アーク?」

 ヴィオラの意識が遠のきかけた時、ヴィオラの顔を覗き込んでくる人物がいた。始末屋アーク・レインドフ本人だ。大方の警備員を片付けてきたのだろうが、その身体には怪我ひとつしていないどころか、返り血一つ浴びていない。

「大丈夫か? 何があったんだ?」
「……わりぃ。アーク……誰か治癒術師を紹介してくれ」

 ヴィオラはその言葉を最後に、意識を手放した。


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