零の旋律 | ナノ

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「その答えを教えるつもりはないけどな、けど一つはっきりした。あんたはレス一族の人間だろ」
「……」
「レス一族、俺たち裏切った裏切り者が何を叫んだところで無駄だ」
「確かに、裏切ったかもしれないな。けれど、それ以上にアンタ達は、自分たちの力に固執したせいだろ。失いたくないと拒絶したくせに、今さら此処に干渉しようとしてくるな!」
「あんたらの裏切りは致命的だろ。そう致命的な嘘をついていた」

 会話がかみ合っているようでかみ合わない。けれど、話は進む。かみ合う必要など最初からないのだから。

「魔術師はこの世界で生きるためには魔術を失わなければならない――そうしなければ、この世界に適合出来ないからと、そうやって当時の人々全てから魔術を奪ったんだろ」

 男は魔石を使わずに魔導――否、魔術を展開する。複数の魔法陣が同時に出現する。

「だが、実際に魔術は使えるし、俺たちは生きている」

 魔術が放たれると同時に、ヴィオラは油断した、交わせると。しかし無数の光線は交わせる隙などなかった。ならば――とヴィオラは咄嗟に判断する。

「ぐっ……」

 無数の光線がヴィオラの身体を貫く。致命傷ではないが、出血と痛みが酷い。立っていられず膝をつくと同時に、ヴィオラは顔を顰める。それは――見えた。記憶として脳裏に浮かんだ。

「“ヴァイオレット”お前たちの目的は――この世界を奪うことか? 自然がある“生きている”この世界を」
「……なんで、俺の名前を? ……そうか、油断していた。レス一族は特殊能力を持っているんだったな。レス一族は――他人の記憶を盗み見ることが出来る。確か能力の発動条件は、媒体に触れた時だったか? それなら、俺が攻撃したのを直接食らっても、その攻撃は俺を介した攻撃だから記憶を盗み見られるのか?」
「……はっ、ご名答だよ」

 血を流しすぎた。ヴィオラは血が滴る右腕を抑える。治癒術は扱えなかった、だから治癒する術はない。
 ヴィオラ・レス、それがヴィオラのフルネームだ。レスの名がつくものには特殊な力があった。それは触れた対象、媒体を介して相手の記憶を読むことが出来るのだ。
 ヴィオラが今まで、事前情報なしに相手の情報を的確に集められたり、相手の望む思いを――心に侵入する隙間を的確に見つけ出せたのは、相手に触れることで相手の記憶を読み取っていたからだ。言葉で喋らせる必要はない、触れればそれでヴィオラの欲しい情報は集まる。但し、生身で触れなければ記憶を読むことは出来ない。だからこそ、ヴィオラは詐欺師としての腕前を誇り、且つ、出来る限り手袋を外していた。手袋をはめている状態では相手の記憶を読めないからだ。
 勿論、実の妹であるシャーロアにも同じ力が備わっている。但し、ヴィオラとは違いシャーロアは勝手に他人の記憶を読むべきではないと判断して、情報屋として活動する場面以外では手袋をはめ、記憶を読まないようにしていた。
 シャーロアとヴィオラは考え方が根本的に違った。ヴィオラは妹や魔族に対しては記憶を読まないように配慮しているが、人族の記憶を読むことに罪悪感はない。人族でありながら、人族を恨んでいるからだ。


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