零の旋律 | ナノ

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「誰も出てこないと面倒だし、何ればれるなら、遅かれ早かれ同じだ」
「そりゃ、そうだけどよ」
「納得しようが、しまいが――ほら、警備員のお出ましだ」
 アークの口元が歪むのとほぼ同時に、銃を片手に幾人もの武装した警備員が現れる。
 アークは一瞬で間合いを詰め、警備員が驚愕に瞳を見開く間もなく、銃を奪い取り、百八十度回転させ警備員の胸に銃口を当てて発砲する。

「……奪うくらいなら最初から武器を所持していりゃいいのに」

 ヴィオラはアークが服の中に武器を無数に仕込んだ上で、その辺にあるものを武器として使うことを知らない。アークが率先して戦ってくれるならいいかと、指で挟んでいたトランプを仕舞う。必要以上に戦わないのがヴィオラの主義だ。
 警備員を全滅させたアークは先へ進む。途中で階段があり、上階へ行くのか、それとも部屋の奥にある扉を行くかの分かれ道が出てきた。

「どうするんだ?」

 警備員は上から侵入者を排除しようと向かってきているのだろう。足音が忙しなく聞こえてくる。
 未だ研究施設内だというのに、研究が見当たらない。何もない場所が続いていた。

「二手に分かれた方が効率的だ、俺は奥へ」

 アーク・レインドフに警備員の始末を任せるということだ、依頼料を貰っているアークは、階段の手すりへ軽々と上りかけていく。普通に上れよと内心で突っ込みを入れた後、ヴィオラは奥の扉を目指す。
 奥の扉を開けた瞬間、ヴィオラは息が詰まる思いだった。空気が重く呼吸が辛い。
 真ん中は通路で、両端には檻が敷き詰められている。その中には、魔物の死骸や辛うじて生きている魔物、うめき声が耳に入る。辛うじて生きている魔物はしかし生きているだけで表情は死にたいと告げているようであった。死んでしまった方が楽だと――。
 ヴィオラは魔族ではない、魔族の血を引かない以上、魔物の言葉を理解することは出来ない。それでも表情でわかった、殺してと告げているのだと。人族として求めてはいけない物を求め、魔族を殺し、血を奪い取ったが故の罪だ、これは。しかし――魔物はもう充分その罪を受けたのではないか、ヴィオラはそう思う。
 だからこそ、ヴィオラは氷属性の術を詠唱し、六華の刃を三百六十度全体に咲かせ魔物を貫く。

「――あぁ。そうか、是が魔力を狙う魔物の片鱗……」

 ヴィオラは人族を嫌っている。魔族と幼少期より一緒にいたヴィオラにとって人族とは魔族の敵であり憎むべき対象でもあった。けれども――魔物にまで憎むべき対象でいようとは思わない。魔物となった段階で、人族としての全てを奪われているのだから、これ以上恨んだ所で仕方ない。


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