零の旋律 | ナノ

V


 ヴィオラとアークは芯から冷えるような中、研究所を目指す。ヴィオラはこの間より気温下がっていると両手を組んで少しでも温かくなるようにしようとしているのに対し、アークはいたって平然としていて、前も開いたままだ。

「アンタ寒くないのかよ」

 見ているこっちが寒くなるとヴィオラは悪態をつく。

「全然。リヴェルアじゃ雪って珍しいからむしろ楽しい気がするぞ」
「……このっ」
「ってか、俺よりリアトリスの方が薄着だっただろう」
「よくあんな恰好して平然としていられるよな。アークもリアトリスも感覚おかしいんじゃねぇの」
「ヴィオラが寒がりなだけだろ」
「俺はいたって普通だ!」

 そんな周囲から注目を浴びるわけでもない会話をして、研究所前に到着する。
やはり結界が貼ってあるからだろう、外に警備の姿はない。ヴィオラがアークより一歩前に出る。雪で出来る足跡は気にしない。ヴィオラは指で文字を描くよう動かして結界を通り抜ける為の術を作り上げていく。青白い光は、ピアスにしている蒼い魔石と同様の光を帯び、アークとヴィオラを包みこんだ。

「行くぞ」
「へー結界があったんだ」
「アンタは結界とか気にしなさそうだよな」
「正面から堂々と侵入する趣味もないけど、態々結界をすり抜けようとも思わないな」
「アンタみたいな戦闘狂なら、そうかもしれないけどな」

ヴィオラとアークが結界を抜けると、文字は役目を果たしたと輝きを失いやがて霧散する。

「で、どっちだ?」
「こっちだ」

ヴィオラの指さす方向に向かってアークは進む。コンクリートが円状に積み重ねられて建物が構築されており、人気のない場所は冷気が籠っているようで、異様な空気だった。
ヴィオラが侵入するのを諦めた扉の前へ到着すると、躊躇するヴィオラとは反対にアークは慎重になるわけでもなく扉を開けた。研究所にいる人族を始末することが依頼ならば、人族に出会う心配をする必要はない。片っ端から始末していけばいいのだから。

「ほんと、怖いもの知らずだよな」

感心するべきか呆れるべきか、ヴィオラは悩みながらアークの後ろに続く。
研究施設内に侵入したヴィオラとアークだが、そこには不自然なくらい何もなかった。ただ、机が均等に並べられているだけ。青く薄暗い空間、肌にまとわりつく嫌な気配。ヴィオラは顔を顰める。この先には、魔石を襲った魔物が存在するはずだ、と確信を強める。室内は外とは違い気温が一定で保たれているのか寒くない。ヴィオラは手袋を脱ぎ、周囲を観察するように触っていくが、特にこれといった変な物はこの部屋になかった。奥へ進む扉があり、扉にアークが手をかけようとした時、侵入者防止用の魔導が組み込まれていた扉の魔石が赤黒く光出した。

「……アーク・レインドフ、人を呼ぶためか!? わざと引っかかったのは!」

アークが扉の仕掛けに気がつかない筈がない、ならば確信犯としか思えなかった。事実アークは扉が赤黒く光出しても無反応――むしろ楽しそうにしていた。


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