零の旋律 | ナノ

始末屋帝国


 帝国へ向かうメンツが決定したところで、ヴィオラ、アーク、リアトリスは船で帝国へ向かう。
 今度は正式に旅券を持っていたが、アーク・レインドフの名前は他国でも有名なため偽名をしようすることにした。その為、偽名がばれたらばれたで厄介事は待っているのは間違いない。
 偽名を使って堂々と帝国へ侵入する。アークは寒くないのか、普段の服装の上にコートを羽織っているだけだ。第二ボタンまで開かれたワイシャツの前は見ているだけで寒々しい。同様にリアトリスもケープコートを着ているが、それ以外は普段の外出用な服のままなため、ミニスカートとニーソの間は生足でこちらも見ているだけで寒々しかった。白い耳あてをするくらいなら、ズボンをはけと内心ヴィオラは突っ込みを入れる。ヴィオラの恰好は前回の反省点も含め、厚手の白いコートにもこもこのボアがフードについている。ヴィオラの恰好が帝国では普通なのだが、アークとリアトリス二人と一緒にいるとヴィオラだけが寒がり屋に見えてしまう。

「すぐに行くのか?」
「いや、少し情報を入手したいところだ」
「でしたら! ご飯食べましょう。主が倒れたら困るので」
「……」
「何処か何かありませんかー?」
「さぁ」

 ヴィオラは帝国に料理目的でやってきたわけではない、だから美味しい店を聞かれても答えられる回答は持ち合わせていなかった。

「あ、そういや」
「主、何ですかー?」
「そういや、カルミアが帝国にいるんじゃなかったっけ? どっかで酒場やっているんじゃないかなーと思って」
「あぁ、そういえばそう言っていましたね。でしたらそこを探しましょうか―」

 リアトリスはカルミアがいるだろう酒場に狙いを定めたようで――帝国の城下町にいるとは限らないのに、道行く人におかまの店員がいる酒場を聞いて回った。そして十分もたたないうちにカルミアがいる酒場が判明した。
 酒場の扉は分厚く、なかなかの重量があった、これも寒さ対策だろう。扉を開けると来客を告げる鈴がなる。時刻は夕方で、また夜ではないからか人はそこまで多くなかった。
 そして、見覚えのある顔がグラスを磨いている。アルベルズ王国で酒場の店員をしていた人物、カルミアだ。撫子色の髪はゆったりとウェーブしていて女性的な雰囲気を醸している。桃色の瞳がアークを発見し僅かに細まる。女性物の服装に身を包んでいるが、体格から判断して性別は男。アークは迷うことなくカルミアに近いカウンター席に座る。

「いらっしゃい、何を飲むのかしら」

 口調も女言葉であるが、声色は男だ。ヴィオラはアークの右側に、リアトリスは左側に座る。

「カルミアお久しぶりですー、オレンジジュース下さい!」
「酒場は本来未成年立ち入り禁止なのだけれど、仕方ないわね」

 リアトリスの注文に応じてすぐにオレンジジュースがテーブルの上に置かれる。

「ありがとーうです」
「で、アークは何を飲むのかしら? そちらの人は初めてだけど」
「あーこいつはさ……じゃなくてヴィオラ」

 今詐欺師っていうつもりだったよなと横目でヴィオラはアークを人睨みした後、テーブルに両肘をつく。


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