零の旋律 | ナノ

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「帝国直轄の研究施設」
「それってレインドフだってばれると、確実リヴェルアとの国家間問題に発展するよな」
「レインドフだってばれなきゃ問題ないだろう」
「まぁ、そりゃそうだが」
「だからレインドフだとばれないようにしてもらえば構わない」
「それはいいが、しかしそんな重要な施設と人族を始末するなら、それ相応の金額が必要だが、払えるのか?」

 人一人始末するのとはわけも規模も違う。王族でも貴族でもないヴィオラがそれほどの金額を用意出来るのかが謎だった。レインドフの依頼料を知らないヴィオラでもないだろうに。

「勿論だ、ほら」

 そう言ってヴィオラは手提げ鞄にしてはやや大きいものをアークに渡す。鞄の中を開けると、そこには金品と宝石の類がぎっしり詰め込まれていた。

「足りるか?」
「……足りるけど、あぁ。詐欺をしたのか」
「お前本当に俺が一度人をだました姿を見ただけで詐欺師が職業だと判断しやがって……」

 決めつけた態度に眉を顰めるヴィオラだったが、事実その通りであった。因みにリヴェルアではなくイ・ラルト帝国で詐欺をしたものである。

「でも事実だろ?」
「はいはい、事実だ。まさかレインドフは人からだまし取った金では仕事しませんとか言うんじゃないよな?」
「そんなことを言うと思っているのか? 第一思っていたら詐欺なんてしないだろう」
「まーな。第一そんなことで動かないとかほざくのなら、始末屋なんか止めろというべきところだしな、詐欺よりあくどいだろ」
「否定はしない。レインドフって基本的に前料金と成功報酬ってわけていたりするんだが、纏めてでいいのか?」
「勿論だ、そのつもりで最初から用意してきたんだからな」
「ならいいけど、それにしても、その研究施設には一体何があるんだ?」

 リアトリスは未だにヴィオラの光加減では水色にも紫にも見える独特の髪を引っ張って遊んでいる。ヴィオラが何度もやめさせようと試みているが、その度に失敗していた。

「恐らく、魔力を狙う魔物はそこで作られた」
「ほわ!? 人工的な魔物ってことですか」

 リアトリスが口を挟む。アークが驚くより先にリアトリスに言われ、アークは口を半分開いた状態で終わってしまった。

「恐らくな。確証は持てないが、本来そんな魔物は生まれるはずがないからな」
「魔物が人族の慣れの果てだからか?」
「知っていたのか」
「ほわ!? どういうことです主」

 ヴィオラは当然のごとく知っていた。そして、相手が事実を知っているのならその事実に対してとぼけるつもりも否定するつもりもない。

「言葉のままだ、眼帯君――アルベルズで会った眼帯した少年いただろう?」

 リアトリスに対してアークは簡単に説明を始める。

「今回の依頼の後、巷で噂の人語を話す魔物に出会ったんだ。その時、眼帯君とも出会ってな、魔物は人族の慣れの果てだと知った」
「ほわー、そうだったんですか。……つまり、魔石を体内へ入れた者が死後魔物へとなるわけですね」

 リアトリスは決して鈍くない、話の途中でも先の回答へたどり着くことが出来る。
 その様子にヴィオラは僅かに驚く。この少女に推察力があるとは思わなかったからだ。それが表情に表れていたらしくリアトリスはヴィオラの髪をやや強く引っ張る。

「正解だ」
「……ということは、あの眼帯少年君は魔族に何らかの関係がある、というわけですね」
「それも正解」
「あわー色々びっくりですよ」
「俺はお前がそんなに推理力があった方が驚きだ」

 ヴィオラの余計なひと言。リアトリスは思いっきり髪を引っ張った。前に引っ張られたせいで机に顔面をぶつけそうになる。


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