零の旋律 | ナノ

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 シェーリオルは人語を話す魔物を見つけた時、既にそこにはラディカルたちがいた。そして驚愕の真実を耳にする。シェーリオルは自分の耳を疑った、しかしいくら疑おうとも繰り返される言葉は同じ、魔物が人の慣れ果てだと言うこと。そして同時に理解した。カサネ・アザレアがしつこくシェーリオルに、どんなにピンチになろうとも魔石を体内へ入れる真似はするなと言っていた真意はこういうことだったのだ。
 カサネは隠しているとは言え、四分の三は魔族の血が混じっている。魔族である者が魔物の正体を知っているのならば、当然カサネが知らないはずがない。

「(そういうことだったのか、カサネ)」
「何を悩んでいるんだ?」
「ん、あぁ。色々とな、この事実を俺が知った分には別に問題はないが――それを口外するかはまた別の問題だ」
「事実を知った今、隠せば隠蔽になるぞ。知らなければ隠蔽にはならなくても、知ってしまって故意に事実を隠そうとするのならばそれは隠蔽だ。最も、国が隠蔽しているものが今さら一つや二つ増えたって何だ変わりはしないだろうけどな。魔族が魔物の正体を露呈させることもないだろうし、仮に露呈したところで人族は半信半疑、荒唐無稽だと思って納得しないだろう。何せ魔族の言う言葉だ、信憑性に欠けるとか言ってな。だが、高名な魔導師であり、王族であるリーシェが発表したら人々は信じると思うぜ、最も――既に体内へ魔石を入れた者は絶望するかも、知れないがな」
「そうだな、まさしくその通り」
「まあ、レインドフには関係ない話だ」
「それもそうだろうな」
「第一、 死んだ後の話だ」
「それを言われると元も子もないよな」

 確かに死んだ後の話である。けれど死んだ後、人の心がどうなるのかわからない、心もなくただ魔族に従う隷属と化すだけなのか、それとも心は残ったままなのか何れにしろ恐怖は残るだろう。
 最もアーク・レインドフは例え魔石を体内へ入れていたとしても、どこ吹く風で気にも留めなかっただろう、それこそ死んだ後の話だと言って笑い飛ばすことくらいは容易でしそうなものだ。
 けれど、誰しもがアークのような性格ではないし、またアークのような思考を持っている者など極端に限られてくる。

「……まぁ、口外するかしないかは考えておくさ。発表したら間違いなく混乱するしな」
「真実は混乱を招くものだろう」
「口外する前に、もっと混乱を招く真実が待っていたらどうしよう」

 おどけてシェーリオルは言う。可能性は大いにあるのだ、まだ魔力を狙った魔物の正体もわかっていないのだから。あり得ないと人族が思うことは真実として常にあり得る。現に魔物の正体も人族の慣れ果てだという――人族からしたらあり得ないことが真実として浮き上がってきたのだから。
 一つしかないなんてことはない、二つ三つと埋もれている真実は山のようにある。

「可能性はあるだろうけどな」
「まぁ、人語を話す魔物の存在は当分噂話として消えてもらうよ。地味に色々対策を練ってから危険性を発表するしかないだろうし、じゃあな。次会う時は依頼でも持ってくるよ」
「入らない。お前の依頼はほぼ百%の確立であの策士様の依頼だろう、あいつの依頼は受ける気にならない」
「と言いつつ、持っていったら依頼は受けてくれるんだろ?」
「レインドフは依頼を断らないからな」
「そういうことさ、それをカサネも大いに利用している」
「……あいつだけ特例にするぞ」
「ははは」

 シェーリオルはゆったりとした足取りでアーク達に背を向けて歩き出す。方角的に港町シデアルに戻り船で王都リヴェルアへ帰還するのだろう。

「それにしてもあの王子様は足が軽すぎだろ」
「本当ですよね」
「まぁ、それは第一王位継承者にも言えることなんだろうけど」
「エリーシオ・アルト・デルフェニですね。彼もしょっちゅう各地を奔走していますからねぇ」
「一度戦ってみたいよ」
「主はまず不敬罪で捕まるべきですね」

 強者とあれば誰構わず――それが王子だろうが戦いたくてたまらないのが戦闘狂のアークだ。

「主の戦闘狂などどうでもいいのですが、そろそろ帰宅しましょうよ、こんな場所で足止めを食らったせいで足が痺れてきました」
「嘘だろ」
「嘘じゃありませんよ、心の問題です」
「つまり嘘だってことだろ!?」
「ほら行きますよ」
「はいはい」


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