零の旋律 | ナノ

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「まさか、彼が有意義な情報を持っているとは、人はみかけによらないものなのですね」

 それがヒースリアの感想だった。魔物に対してでも、ハーフに対してでもないのはヒースリアらしいと言えばらしい。

「最も海賊になる上では不要な知識そうでしたが」
「海を渡る魔物もいるんだし、別にあっても困らないんじゃないのか?」
「あっても困らないというものはつまり、なくても困らないということですよ」
「まぁな」
「どちらにしろ人語を話す魔物の存在は――そういうことですが、彼の見解は正解ですか? リヴェルア王国第二王位継承者シェーリオル・エリト・デルフェニ」

 ヒースリアの視線は北北西のある一点を指す。

「だからリーシェでいいって」

 最早お決まりとかした言葉をいいながら、木の影からシェーリオルは姿を見せる。ゆったりと着崩した服が風に靡いてより一層着崩しているように実感させる。

「ってか、流石にそろそろ気になって来た。執事らしくない執事って一体何者よ」

 魔物の攻撃を身軽な動きで避け、シェーリオルですら気がつかなかったヴィオラの気配にアークとともに気がついていたり――今回もシェーリオルの気配を察知していた。 それだけで、ヒースリアの実力が高いことは伝わってきた。ならば何故、執事であるのか、そして彼が何者であるのか、それがシェーリオルにとって謎でしかない。

「私の名前はヒースリア・ルミナスですよ。まぁ最も本名じゃないのですが」
「本名じゃないのかいよ」
「えぇ、主に本名で呼ばれると虫唾が走るので偽名にしました」
「は? おい、お前が今までの名前は使いたくないっていったの、それが原因!?」

 アークが横やりを入れる。

「それ以外に何かありましたっけ?」

 ヒースリアは本気で首を傾げそうだったので、アークはもういいやと諦めて嘆息する。

「で、何者だよ」
「生憎、王子に教えて差し上げるような名乗りは持ち合わせていませんよ」
「答えるつもりがないなら、深く追求するつもりはないけど、一つ。どう考えたって戦い慣れているよな?」
「それは王子の人の見る目を信じたらどうですか? 私は外れとも正解とも言いませんが」

 誤魔化すつもりはないが、答えるつもりもない、そういうことらしい。

「そうだ、リーシェ」
「何だ?」

 何も言わないつもりのヒースリアに変わって、アークが一つだけ真実を教えることにした。

「お前、以前祭典でピンチに陥った時助けたの、俺じゃないからな」
「え……ってことは、そこの執事か」
「ご名答」

 狙撃されそうになった時、銃弾に銃弾をぶつけるという並はずれた技を見せ付けた狙撃主、それが誰だったのか――あの場にいたもので可能だったのはアークしかいないと決めつけていたが、それをやったのはヒースリアだという、しかしそれで得心が言った。
 最初からカサネとヒースリアの会話は聊か変だった。ヒースリアに高い戦闘能力があり、その事実をカサネが知っていたのならば、あの会話にも合点がいった。

「ヒースリア、助かった」
「お礼を言われるような筋合いはありませんよ、単純に油断した貴方が悪いのでしょう?」
「油断したのは事実だけどな……」
「主が余計なことを言ったので仕方なく私のことを一つ、教えてあげますよ王子。貴方とは住む場所が違う――裏の住民ですよ」
「そうか」
「流石、カサネ・アザレアをつるんでいるだけあって動じませんね。さて、話がずれましたが、王子は魔物が人の慣れ果てだと知っていましたか?」
「いいや、知らなかった」

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