零の旋律 | ナノ

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 ラディカルが眼帯を外すと金に輝く瞳が現れる。ヒースリアはラディカルが魔族と人族の混血だった事実を知らないが、ラディカルには隠すつもりはもうなかった。ラディカルはヒースリアのことは苦手意識を持っているし、好いてはいないが、それでもアークと同種であるというのならば、ばれた所で構わなかった。事実、初めて耳にするはずのヒースリアは、微かに表情の変化はみられたものの何も感じていないようにラディカルには思えた。

「ふーん、そうなのか。けど魔族は知っていて人族は知らないってのは不思議だな、何処かで漏れたりはしないのか?」
「そりゃあ、歴史上の中で全く漏れなかったってことはないだろうけど、でも――それを信じる?」
「あぁ、そういうことか。人族が魔物に慣れ果てるなんて荒唐無稽な話、信じたくはないだろうしな」
「魔物が魔族に逆らえない理由も、魔石が原因さ」
「……魔族の血によって魔物へ変化させられる以上、上位系統として魔族が存在しているってことか?」
「ご名答。だから、一時噂になっていた魔石を狙う魔物も本当はおかしい魔物なんだけど、それは見つけられなかったからなんともいえないんだけど。まぁとにかく、人語を話す魔物の願いどおり俺は殺して上げるつもり、邪魔しないでね。お兄さん」
「別に依頼を受けているわけじゃないから、邪魔はしない」

 ラディカルは今度こそ、魔物に刃を突き刺した。なるべく苦しまないように一撃で殺す。血が跳ねて顔や服に飛び散った。ラディカルは顔についた血だけ服で拭き取る。僅かに後が残ったが、仕方ないと拭くのを止める。

「依頼中のお兄さんじゃなくて良かったよ。この魔物が死を望むのなら殺して上げるべき、だから。この魔物が今はまだ噂の段階だけど、研究者に見つかれば非道な扱いをされるのは目に見えているし」
「レアな研究対象として殺されずに、生かされ続けるだろうな。ならば、此処で殺しておいたらってか、人の噂も七十五日、暫くしたら都市伝説か何かにでもなる程度で終わるだろうか、何せ荒唐無稽な話だ」
「そういうこと。お兄さんには必要ないかもしれないけど、魔石は体内へ入れるべきじゃないよ」
「俺はそんな詰まらないことはしない」
「詰まらないかっ、本当ならそうなのかもしれないけど、人族は本来持てないものを持つことを願うから皆お兄さんみたいに詰まらないの一言で終わらしちゃくれないしな」

 魔物に対してラディカルは同情をしない。知らなかったこととはいえ、それでも――人の手に余るものを扱おうとした代償であり、ある種自業自得だとラディカルは思っている。けれど、だからといって非道な扱いを受けて欲しいとは思っていない。

「それと、魔族は魔物の言葉がわかるんだぜ。勿論ハーフである俺にもわかる」
「まぁそうだろうとは思っていたけど、やっぱそうなんだ」

 魔物を自在に操る力があるのなら、何か意思疎通の手段があるとアークは思っていた。

「あぁそういうことっす。それじゃあ俺は海賊の船長になる計画を実行しに、シデアルへ戻るんでじゃあ」
「それじゃ」

 アークは軽く手を振る。ヒースリアは腕を組んだまま動く様子はない。最もヒースリアが満面の笑みで手を振ったら脱兎のごとくラディカルは逃げるだろう。


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