零の旋律 | ナノ

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「……この魔物は――魔石を体内にいれた人族のなれの果てだよ」
「――どういうことだ!?」

 アークだけでなく、ヒースリアも驚愕している。当然だろう、ラディカルの言葉は今までの魔導師達の風習にとんでもないリスクがあることを証明している。

「魔石を体内へ入れた人は、死体が残らず消滅するのではないのですか?」

 今まで、研究者たちの間で発表されているリスクは、魔石を体内へ入れた者は死ぬ時、その代償に肉体が残らないこと、だけだった。だからそれを拒む者は魔石を体内へは入れない。死体が残らないより――魔物になり果てる方がリスクは遥かに高い。

「貴方の言ったことが仮に真実だとして、ならば国はその事実を隠蔽しているってことですか? あの魔導師――リーシェも、魔石は体内へ入れていませんでした。ならば知っていると捕えるべきですかね?」

 本来、リーシェ程の実力を保有する魔導師が体内へ魔石を入れていないことは珍しい。最も彼の場合は王家だから、死体が残らないと埋葬の時に問題が発生するのかもしれないが。それよりも隠ぺいしている可能性の方がずっと信憑性がある。国は何時だって知られたくない出来ごとは隠すものだ。

「いいや、知らないと思うぜ。あの薔薇魔導師様も恐らくは知らない(最もあの薔薇魔導師様には、あの策士が一緒にいるから、魔石を体内へ入れるなという忠告は受けていそうだが)」
「何故だ?」
「んあ。今にも死にそうなお兄さん、簡単に言うとね、のちに危険性が生まれるとわかっているなら禁止するでしょ。魔物を退治するのに費用も人もかかるんだから、それに体内へ入れなくても魔導は扱えるんだし」
「そういやそうだな」

 体内へ入れるのはあくまでも魔石を戦闘時に破壊されたり無くしても戦えるようにするためという理由が他の追随を許さないほど大きい。魔石を常に持ち歩くのが大変だ、ということはまずない。例えばヒースリアのブローチ、シェーリオルの髪留め、シャーロアのネックレス、ヴィオラのピアス、ハイリのブレスレットのように、装飾品として身につければいいだけなのだから。魔物になるリスクを国が隠蔽して得することなど、よくよく考えれば殆どないだろう。

「それに、実際体内へ魔石を入れた者は死後、死体は粒子状になり消える。まさかそれが数時間後に再形成されて魔物になるなんて、誰も思わないだろ?」
「そりゃそうだ。すぐに魔物へ変化するなら話は別だが、それに魔物の謎は完璧には解明されていないのなら、何時何処かで現れた所で、そこに魔石を体内へ入れた人が死んだのが原因だとは思われないし、仮に思われてもその人物が魔物になり果てているとは誰も考えないか」
「そういうこと」
「だが、なら一つ。何で眼帯君は知っているんだ?」
「そりゃ、俺がハーフだからっしょ。魔族に連なる者なら、誰だって知っている常識さ」


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