零の旋律 | ナノ

V


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 アーク・レインドフとヒースリア・ルミナスはシデアルの繁華街を歩いていた。
 アークがいつも通りいつものように仕事に奔走し結果三日後に何時も通り倒れてヒースリアがアークを拾い、ホテルで一泊した後のことである。

「全く、なんで私は主探索能力ばかりが向上するのでしょうか、次はリアトリスに主を拾うのを任せますから」
「その辺は勝手に相談してくれ」
「自分のことなのに他人事とは、どれだけ他人様に甘えるのですかねえ、この仕事中毒は」
「少しは仕事しろ!」
「主を拾うのが、執事とメイドの仕事だと本当に思っているのですか?」
「あのなぁ」
「それにしても同じ噂しか聞きませんね」

 毎回のことなので途中で打ち切ろうとしていたアークより先に、ヒースリアが話の方向転換してきた。
 聞き耳を立てて人の会話を立ち聞きする必要もない程に、今ある噂がひっきりなしに盛り上がっていた。

「人語を話す魔物か。魔石を狙う魔物の次は言葉を話して、一体次は何の魔物がくるんだかな」
「次は人の形をした魔物でも現れるんじゃないですか」
「あー来るかもなぁ」

 道中の暇つぶし程度に、彼らもまた噂話をするのであった。自宅へ帰宅する途中、まさか人語を話す魔物に出会うとはこの時、露にも思わず。

「これぞ、まさしく犬も歩けば棒に当たるですね」
「は!? 噂をすれば影が差すじゃないのか?」
「では、猿も木から落ちるで妥協してあげますよ」
「たいして変わっていないだろうが!」

 道は辛うじて整備がされているが、周囲には誰もいない。広々と景色が見渡せそうな見晴らしのいい場所で、まるで人が来るのを待っていたかのように魔物はそこに佇んでいた。体調は芳しくないのか、お腹が空いているのか息が荒い。

「オ……マエら……」

 ノイズが混じり酷く聞き取りにくい声だったが、それでもはっきりと言葉を魔物は喋った。何かを伝えたくて――その魔物は道で佇んでいたようにも感じられた。
 アークやヒースリアは魔物が喋った事実に驚くよりも先に、走って近づいてくる足音の方に気がいく。その人物を確認するまでもないのか、ヒースリアは軽くため息をつく。

「すみません、この魔物があなたのお母さんとは知らず、主が殺す所でした」

 ヒースリアは後方を振り返らず口を開く。

「なんでだよ! なんでそうなるんだよ! この性悪執事!」

 走ってやってきたのは人を名前で呼ばない少年――本当は少年の年齢ではないが――ラディカル・ハウゼンが現れた。魔物を探し回っていたからか、肩で息をしている。

「情けない体力しかないのですね、本当に。大きな武器を振り回す前に基礎体力から付けたらどうですか? 逆上がりできます?」
「それくらいは出来るわ!」
「つまり、それが出来ない人を侮辱しているというわけですね、言葉が刃になることを知っていますか?」
「それはあんたが最も熟知しておかなければならないことだと思うぞ」

 ラディカルは余計に疲れたようで呼吸が荒い。ヒースリアの毒はアークだけには向かないので――むしろ相手を選ばない節がある。
 今でこそリアトリスと意気投合しているヒースリアだが、当初はリアトリスに対しても毒を吐いてばかりだったのは今となっては懐かしい想い出だとアークは思っている。最もカトレアに関してのみヒースリアの毒は向かなかった。理由の一つには勿論、リアトリスが怒るからだろう。


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