零の旋律 | ナノ

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「凄いな、本当に貰っていいのか?」
「構わない、だから渡しに来たものだし」
「有難う、助かるよ」
「あの時のお礼をしただけのこと」

 要件は去ったとばかりにホクシアは再び魔物の背に乗ると同時に魔物は翼を広げ空へと羽ばたく。
 シェーリオルの姿が完全に見えなくなったところで、魔物に乗っていたもう一人の人物、ホクシアと祭典の時一緒にいた青年が口を開く。

「どうして、魔石を上げたんだ?」
「何度も言わせないで、お礼よ」
「お礼をするためだけに、お前の魔石を作るか?」
「五月蠅いわね。私にとっては、それだけあの魔石が大切だっただけよ」
「だとしても、お返しをする必要はないだろう。慣れないことをするから、手に絆創膏まで巻いて」

 シェーリオルに渡した魔石、それはホクシアの魔力によって造られたものだった。髪留めとして使用できるように加工されたデザインはホクシアが考え加工したものでもある。
 同じ魔族として青年には理解出来なかった。人族は魔族の魔力――血によって魔石を作り上げる。だからこそ、魔族は魔石を嫌っているホクシアも例外ではないし、ホクシアは他の魔族以上に魔石を嫌っている節があった。それなのにホクシアが自ら魔石を造ったのだ。

「余計な借りはつくっておきたくなかっただけ。それに、本当に大切だったのよ。私の、両親の唯一の形見だったから。ずっとずっと探してきてようやっと見つかったのよ。彼はその魔石を――それを失うとどうなるかがわかった上で、何の未練もなく渡してくれた。そのお礼がしておきたかったのよ」
「それにしてもなぁ」
「貴方だって、息子が見つかったとしたら、自分の血で魔石の一つや二つ造ったんじゃないのかしら?」

 尚も納得しない青年に、ホクシアは止めの一言をいう。

「ぐっ……そう言われりゃそうだな」
「それと同じ、ということよ。貴方が人族を、私以上に嫌っているのは知っているけど」
「そりゃ人族は嫌いさ、大嫌いだ」
「でも、私としては意外だったけどね」
「何がだ」
「人族を、他の魔族よりも酷く嫌っている貴方が、人族と魔族の混血であるハーフと結婚したことがよ」
「例え、人族の血が混じっていても、ハーフを差別するつもりは俺にはないだけだ」
「でも、ハーフも好いてもいなかったでしょ」
「……まぁな。だけど、彼女だけは別だったからなぁ俺にとっては。だから出会いたいんだよ息子と」

 青年は自分の息子を探していた。人族は大嫌いであったが、息子とである可能性をかけて策士カサネ・アザレアに頼みに行った程に息子と再会したかった。最も結果は断られてしまったがそれでも諦めてはいない。

「見つかるといいわね」
「勿論、見つけ出すさ」

 例えどれだけ嫌われていようとも、大切な息子に変わりはない。見つけ出す決意は変わらない、青年は力強く答えた。


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