零の旋律 | ナノ

魔物事実


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 リヴェルア王国では、ある噂が流れていた。それは人語を喋る魔物が現れているという噂だ。
 カサネ・アザレアはシェーリオルの自室で寛ぎながらその噂の真意を考えていた。
 可能性は二つある、一つは魔石――魔力を狙う魔物と同様、新しい“何か”そしてもう一つは――。

「シオル、頼みがある」
「はいよ、何だ?」

 ベッドで本を読んでいたシェーリオル・エリト・デルフェニは本を閉じ、カサネの頼みごとを聞いてすぐに動ける準備を始める。

「噂の真意を確かめて欲しい」

 それは、策士カサネ・アザレアが動くには聊か不思議な動機だった。
 確かに人の言葉を話さない魔物だ、噂が真実だとしたら新種か何かかもしれないが、それで先手を打つ必要性があるのかシェーリオルにはイマイチ理解が出来なかった。最も策士の考えること、それを非難したり頼みを渋ることはしない。
この場にもしも家臣でもいれば、カサネの王子を顎で使う発言に卒倒したかもしれない勢いで、カサネはシェーリオルへ頼みごとをする。

 魔物の噂は、リヴェルア王都がある大陸とは違う大陸にあり、船で移動することとなる。移動しながら、港町シデアルに到着するのを待つ。シェーリオルは室内でじっとしていても詰まらないと甲板に出て潮風に当たっていたが、途中で王子だということが露見しかけたので、大人しく室内にいることにした。
 魔物の噂は港街シデアルを経由して南にある街“マクテア”そこは魔導の研究が比較的盛んな街だった。
 シェーリオルがシデアルからマクテアに通じる道を歩いている時、人気がない所を狙ってか魔物がシェーリオルの上空から、舞い降りてきた。シェーリオルはネクタイピンとして留めている魔石を一瞬輝かせるが、しかし仕様には至らなかった。魔物と一緒にいる二人組に見覚えがあったからだ。そのうちの一人が魔物から降りる。透き通るような麗しい金色の髪、宝石のような輝きを持つ金の瞳は、強い意思で満ちている。年の頃合いは十二歳程度の少女だが、その立ち振る舞いは何処か貫録が漂う。

「あの時の」

 魔族の少女ホクシアだ。リヴェルア王国の祭典の最中に襲ってきた魔族の一人。シェーリオルにとっては忘れるはずのない少女である。ホクシアにシェーリオルは長年使用してきた砕けない魔石を返したのだから。ホクシアに魔石を返したことは今でも後悔していない、それが本当に望むものであるのならば、望むホクシアへ渡した方がいいと心から思っている。
 ホクシアはシェーリオルに対し、黙ったまま、聊か乱暴な動作で何かを投げた。咄嗟にシェーリオルはそれを受け取る。掌を開くと、そこにはシトリンよりも黄色みを帯び、金色な輝きを持つ魔石を中心にサンストーンのような魔石が小さく飾りとして散りばめられている。それらを紅色の光沢がある金具が一つに纏めていた。

「是は?」
「……あの時の、お礼よ」

 少しだけ、照れ臭そうにホクシアは返答した。

「有難う」
「この魔石なら、貴方がいくら魔導を使ったところで壊れることはないはずよ。試して」

 突然の申し出はシェーリオルに取ってとても有難いものだった。帝国の動きも不透明で、何時何が起きるかわからない以上、いくら予備の魔石を保有していてもそれが尽きれば終わりだ、不安は残る。
 シェーリオルは普通の魔石なら一回で壊れそうな上級の魔導を詠唱もなしに放つ。金色の鳥が羽ばき、中に輝かしいばかりの粉を放つ。本来ならば攻撃用の魔導だが、あえて攻撃の威力はなくしてあるから、観賞することくらいしか効果はない。手に握っている魔石は壊れる気配も、ひびが入った様子も全くなかった。


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