零の旋律 | ナノ

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「大丈夫ですかー? カトレア」
「うん、有難う。お姉ちゃんにシャーロア」
「どう致しましてーカトレアに何事もなくて良かったよ。まぁ、何か仕出かそうとしたら氷漬けにしてあげようと思っていたけどね」
「そ、そこまでしなくても……」
「そこまでした方がいいですよー。カトレアに近づく不埒な輩は氷漬けにして熱湯で煮ればいいんです」

 シャーロアの氷漬け発言にリアトリスは大いに賛成した。賛成したどころかそれ以上のことを平然と言ってのける。

「もう、あの変な男のせいで楽しい気分台無しですねー。シャーロアにカトレア、美味しいアイスでも食べてリフレッシュしましょう!」
「そうだね」

 仲良く手を繋いで、アイス屋を目指し進む。そこでリアトリスは三段重ねアイスにチャレンジした。
 楽しい時間を終え、カトレアとリアトリスはレインドフ邸へ帰宅する。リアトリスは疲れているだろうからとカトレアに休憩することを勧め、カトレアは姉の好意を有り難く受け取ることにした。
 ヒースリアに紅茶を入れさせ、カトレアへ届けた後、リアトリスは主であるアークの自室へ向かう。
 この時間ならば、部屋にいると判断したリアトリスはノックすることもなく扉を開けて中に入る。
 アークは本を眺めている最中だった。仕事かと一瞬リアトリスは思ったが、構うことなく近づき本を覗く。仕事関連ではなく、見合い写真だった。

「お帰り」
「ただいまですー」
「どうだった?」
「楽しかったですよ。やっぱりシャーロアはいい子ですよね! 感謝なんかしたくはありませんけど、今回ばかりはシャーロアを紹介してくれた主に感謝しますよ」
「素直じゃないな」
「是は私のデフォルトですから、諦めて下さい」

 アークは見合い写真を仕舞い、本棚へ戻す。リアトリスは机の上に座っていたが、アークは咎めることをしなかった。

「そうだ、主聞いて下さいよー。カトレアったらナンパされたんですよー」
「追い払ったか?」
「勿論です。何だか、変な人がこっちを監視しているなぁーとは思っていたんですけど、正体はカトレアをナンパしたい不埒な輩でした」

 リアトリスは足をばたつかせて頬を膨らませる。それだけが唯一今回楽しくなかった出来ごとだ。

「それにしても、珍しいよな。お前がシャーロアに会いに行きたいって言って二人だけで出かけるなんて」
「そりゃあそうですよ。折角、カトレアのお友達なんですから。カトレアともっともーと仲良くして欲しいです」

 カトレアにはもっと沢山友達を作ってほしい、姉の願いだ。だが、その裏には自分には友達がいなくてもカトレアさえいればいいという決意も秘められている。

「“カトレアの友達”だけじゃなくて、“リアトリスの友達”にもしたらどうだ?」
「……私は別にいい、私に友達がいなくてもカトレアに友達が出来て、カトレアが楽しく笑ってくれるなら、それだけで幸せだから」

 その言葉は、普段の元気溌剌で丁寧な口調なようで言っていることは丁寧でもない口調ではなかった。

「そっか」
「だから、私はいいの」

 アーク・レインドフに取って、その変化は別段珍しいものではない。
 ヒースリアが本来の口調と、執事としての口調を分けているのと同様、リアトリスも普段の口調と、素の口調を分けているのだから。


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