零の旋律 | ナノ

双子友達


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 リアトリスとカトレアは交流都市ホクートへ訪れていた。勿論主であるアーク・レインドフのお金でだ。以前会ったシャーロアという情報屋の少女と遊ぶために浮足立った足取りで、シャーロアの自宅を訪れる。

「シャーロアいますかー?」

 扉を開けて遠慮なく足を踏み入るのはリアトリスだ。やや遅れて遠慮がちにカトレアが入る。

「あ! リアトリスとカトレア! 遊びに来てくれたの?」
「勿論ですよー! 今回は鬱陶しい主もいませんから、思う存分遊びましょう! あ、勿論お金の面は心配しなくて大丈夫ですよー主から強奪してきましたから」
「強奪って」

 強奪の言葉に、シャーロアは相変わらずだと微笑む。しかし、実際は強奪したのではなくアークが珍しく、リアトリスに金銭を要求される前に手渡したものだ。
恐らくはカトレアが一緒に行動するからであろう。レインドフ家の面々はカトレアにだけは優しい。万が一にでもカトレアに危害が加わる危険性があれば、全力で排除しにかかるだろう。

「シャーロアが前に言っていた、雑貨屋に行ってみたいな」
「それそれ、私も興味あったんです!」
「じゃあ、そこにしよっか」

 雑貨屋“クローリア”に到着し、扉を開けると心地よい鈴の音が鳴る。入ってすぐに鳩をモチーフにした時計が飾られていた。一つ一つの品を、見栄えがするように飾ってある。その品々にカトレアは目を輝かせる。

「ほわー凄いです」

 リアトリスの目線は腕時計にいっている。レトロな雰囲気を漂わせる色合い、時計のデザインは花をモチーフにしてあり、その精密な造りに感激している。
 乙女の買い物は長い。クローリア“で二時間ほど商品を物色して買い物をした三人はレトロな雰囲気の紙袋を手に提げて商店街を歩く。

「いいもの沢山で良かったですよー。シャーロアはほんと、趣味がいいですよねー」
「そう? 喜んでもらえて嬉しいよ」
「とっても楽しかった」
「ですよねー。私もカトレアの笑顔が見られて幸せですー」

 こんな時間が一生続けばいい、リアトリスは本心からそう願う。その時、前方から見知らぬ二十代中ごろのやや太り気味の男が此方へ近づいてきて声をかけてきた。一気にリアトリスの表情が怪訝に変わる。

「あの、その子……可愛いですよね」

 簡単にいえばナンパだった。男の視線はカトレアへ向いていて、一歩一歩カトレアに近づこうとする。危険を察知したリアトリスはすぐにカトレアにこれ以上近づかれないように、間に入る。

「ナンパはお断りですよー」
「あの、君可愛いよね。僕と一緒にデートしない?」

 リアトリスの言葉が最初から耳に入っていないのか男はリアトリスをどけてカトレアへ近づこうとするが、リアトリスがどけるはずがない。シャーロアはその様子に目を細め、カトレアを守るために先手必勝だと、得意の魔導を放とうとしたが

「カトレアに触れないでください!」

 それより先に、リアトリスが男の二の腕を掴んだ。

「近づかないでください、これ以上近づくのなら……許しませんよ?」

 冷ややかな視線とともに発せられる淡々とした声は、男が許しをこいても許さないような雰囲気が漂っていた。

「そうだよ。私も許さないんだから」

 シャーロアもリアトリスの隣に並び、カトレアを庇う。現在彼女らがいる場所は商店街で人通りが多い。何事かと視線が彼女たちへ集まりだした。

「うぅ……可愛いのに。わかったよ」

 乱暴に捨て台詞を吐いて、男はリアトリスの拘束から逃れるために乱暴に腕を振り回す。拘束が解けた所で、これ以上人目には付きたくないとばかりに走り去っていった。人の視線も次第に分散していく。


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