零の旋律 | ナノ

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「あんた、ヒースリアって知っているか?」
「いいや、知らないが」

 ヒースリア・ルミナス、レインドフ家で執事をしている彼と何処か似ている容貌をしていたからこそ、ジギタリスに見覚えがあった。ヒースリアという名前に覚えがないのか、ジギタリスは首を横に振る。

「そうか。なんか、ジギタリスに出会った記憶はないのに、何処かで見かけた気がしていたんだ。それを考えていたら、思いだしたのさ。俺の知り合いにヒースリアっていう男がいるんだ、そいつと何処となく似ていたからだ」
「そうか」
「あぁ。アンタと同じ金髪のような銀髪にルビーのような瞳、何より整った顔立ちの人物だったんでな」
「なら一つ忠告を、そいつには気を付けた方がいいぞ」
「ん? っておい、なら知り会いか?」

 再度の問いかけにはジギタリスは答えず、背中を見せて悠然と歩きだした。

「……何だったんだ」

 ヴィオラは呆然としながら、しかしこれ以上気に留めても仕方ない――ジギタリスとカイラの情報を必要以上に集めようとするのに対する労力と時間をかける必要はないと判断した。
 ジギタリスにばれた以上、他の軍人も何れ気がつく可能性があるとヴィオラは判断し、宿に戻る。二重窓になっている所は流石雪国か、と窓から外の景色を眺める。

「(あの研究所に再度侵入するとして、しかし誰に同伴してもらう)」

 最有力候補はホクシアだったが、それと同時に一緒に行動を共にしたくない思いがあった。

「(ホクシアは誰よりも頼りになるし、一緒の方が頼もしいけど――でも、仮に魔力を狙う魔物がいたとしてら、恐らくは他の誰を差し置いてもホクシアへ向かう、それは出来るだけ避けたい)」

 ホクシアが魔物に負けるとは微塵も思っていない、けれど幼少期から一緒にいた――姉のような存在であるホクシアが自発的に動いていない時に、自ら危険に誘う真似はしたくなかった。
 勿論、そういった考えである以上、実の妹であるシャーロアは論外だ。
 暫く悩むが、他に顔が浮かばない、毎回浮かぶのはホクシアばかりだ。表面上は友好的な面を見せているから、それなりの交友関係は持っているが、しかしそれは所詮表面上のこと。彼らを巻き込んだところで成果は出ないし、裏切られる隙を作ることになる。それは御免だった。巻き込んでも支障がない相手を思い出そうとする。

「(あー、一人いた。巻き込んでも支障がないやつ。アーク・レインドフなら)」

 初対面よりは少し上程度の関係。
 けれども、アークは始末屋だ、依頼という形式なら巻き込んでも支障がないと判断した――むしろ、一緒に行動を共にしてもらう相手としてはかなり心強い。
 そうときまればヴィオラの行動は早かった。最初にした事はレインドフへの依頼料を集めること。


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