X 「何がしたいのかは知らないが、あまり不審な行動は起こさない方が身のため、だと忠告しよう。勿論余計なお世話だろうが」 女性の方が口を開く。ヴィオラにとって悔しいのは、その女性が、女性でありながらヴィオラより高身長なことだ。年齢もヴィオラよりは上だろう、落ち着いた雰囲気は何事にも動じない肝も座っているように感じる。流れるような銀髪は足首まであり光加減では薄い金髪にも見えそうだ。左手には布を巻いてある何か――恐らくは武器を隠している――を所持している。白を中心とした軍服にも見えそうな格好は雪国だというのにコートを肩で羽織っているだけで終わっている。 「……何故、わかった」 ヴィオラは鋭い視線で女性を睨みつける。手にはトランプを構え、隙のない体制を取る。 「そりゃあ、普段から見なれない者が歩いていればな、まぁ安心するといい恐らく軍人どもは気が付いていないから」 「それはそうだ。だから何故お前がわかったのかが気になるんだ」 「単にそう言った者たちを何度も見てきた、からだ。その辺の目は養われているもので」 隣にいる男性は無口なのか先刻から一度も口を開かない。ただ、ヴィオラが攻撃に出たらすぐに動けるように――且つ、女性を守るかのように二歩前に出ている。此方の男性も、女性と同じく銀髪だが、光加減では薄い金髪に見えそうな女性の髪質とは違い、銀髪は陰がある場所はやや水色っぽさがある。サングラスで瞳を覆い隠しているから、瞳の色はわからない。白い服に身を纏っている女性とは違い、此方も軍服のようなデザインではあったが、真っ黒だった。コートの胸ポケットには青薔薇の造花が飾りとしてあしらわれている。 「……そうか。お前、名前は?」 何処かヴィオラは銀髪の女性に見覚えがあった。名前を聞けばわかるかもしれないと思い問う。 「私か? 私はジギタリス。此方はカイラだ」 名前を言い渋るかと思ったが、女性――ジギタリスは隠すことなく教えた。 「ジギタリス……? ひょっとして元アルベルズの将軍?」 残念ながら名前には聞き覚えはあっても、出会ったことはなかった。ならば何故見覚えがあるのかヴィオラは記憶を掘り起こす。 「正解だ」 「成程、それならばばれても不思議ではないか、あまり嬉しくなどはないが」 「それはそうだろうな」 「告げ口する予定は?」 「毛頭ない、ただ偶々目にとまったから忠告したに過ぎない」 「そうか」 そこで、ヴィオラはジギタリスに見覚えがあった原因を思い出した。 以前にも、ジギタリスと同様の髪色、そして瞳をした人物と出会ったことがあった。 [*前] | [次#] TOP |