零の旋律 | ナノ

始末屋昔話


+++
 カサネ・アザレアは第二王位継承者シェーリオルの部屋でくつろいでいた。ベッドに横になり、足を上下に揺らしている。その様子をシェーリオルはロッキングチェアに座りながら眺めている。特に何をするわけでもない自由な時間だ。

「そういや、レインドフ家って貴族なんだろ? 何故だ」

 レインドフ家は始末屋でありながら、貴族としての地位もある。それ故にレインドフ家が始末屋として有名であり且つ拠点が明確でありながら迂闊に手を出すことは出来なかった。

「ああ、それか。むかーし昔」

 昔話を子供に聞かせるような口調でカサネはレインドフ家が貴族である理由を語りだす。絵本がカサネの手にあれば、童話だったのだろうが、生憎手には何もない。

「レインドフ家が始末屋と呼ばれる前の話――今のリヴェルア王国が建国されて間もないころ、貴族たちは自分たちの既得権益を失うことに恐怖した。故に貴族たちは王族にこう求めた『一度貴族となったものは永久的に貴族にしよう』と。そしてそれは受け入れられた。何故なら――それはつまり、王族も永久的に王族であるからだ」
「なら、当初レインドフ家は普通の貴族だったのか?」
「そういうこと。レインドフ家はずる賢かったんだ。その案が受け入られた後『つまり何をやっても貴族の名は残るということだよな!?』といった風に貴族が始末屋に転身。といっても貴族としての地位や権利は残っているし、何より邪魔ものを始末したい貴族は、見ず知らずの組織に頼むより同じ貴族の人族を安心材料にしたんだ。だから――影で始末屋レインドフ家は活躍していった」
「影でって今や有名だけどな」

 シェーリオルは苦笑いする。始末屋レインドフ家、それは貴族では知らないものはいないし、裏社会の人間にも知らないものはいないほど浸透している。一般人にまで広く知れ渡っているかまでは定かではないが、それでも、レインドフ家の名前は有名すぎる。

「それは、アーク・レインドフの仕業だからだ。昔からレインドフ家がそこまで有名だったわけじゃない」
「そういや……俺もレインドフの名前をやたら耳にするようになったのは十年前後か?」

 最も、子供だったから耳にしなかった理由もあるといえばあるだろう。しかしカサネはその通りと口元を歪める。歳不相応な笑みは見る者に同じ頬笑みを自然と強要するような力があった。

「正解。特にアーク・レインドフの両親は始末屋稼業に積極的ではなかったからな。けど――始末屋をアークが次いでから飛躍的にレインドフの名前は広まった。有り難くない仕事中毒と戦闘狂の性格のせいで」
「確かに、始末屋にはぴったりな性格だよな。でも――十年前後ならアークはまだ十代前半だよな?」

 当主を務めるには聊か若い。

「両親は、アーク・レインドフが十代のころに殺されたんだ。だからアークは若くして当主となった」
「レインドフ家の首を取れるなんて、どんな強者だ」
「詳しくは知らないが、その後その人物は自ら命を絶ったらしい。報復されることを恐れてだか、理由は不明だが。それにそこまでレインドフ家の家庭事情に興味はないわけだし」

 カサネはそう締めくくる。シェーリオルはロッキングチェアから立ち上がり、二人は余裕で横になれるベッドに腰掛ける。カサネは寝そべったままだ。

「成程な」

 始末屋であり貴族であるレインドフ家の経緯はわかった。シェーリオルはそれ以上のことに興味を示さず力を抜いてベッドに横たわる。衝撃でベッドが軽く上下に揺れる。

「おい……」

 カサネが非難めいた目でシェーリオルを睨むが、当の本人はどこ吹く風だった。


- 139 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -