零の旋律 | ナノ

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「お兄ちゃん、次は何処へ行くの?」

 ヴィオラをずっと繋ぎとめておくことは出来ない。ならばせめて行き先だけでもシャーロアは知りたかった。知らなければ、また兄と離れてしまう。たった一人の家族が何処にいるかもわからない不安はもう懲り懲りだった。

「……帝国に行こうと思っている」

 ヴィオラは瞬時したのち、自分がこれから赴こうと思っている場所を正直に伝えた。

「帝国!? リヴェルアじゃないの……?」
「ちょっと気になることがあってな。それを調べに。大丈夫だ、今度は勝手に姿を眩ませるような真似はしないから」

 兄が妹に向ける眼差しは優しい。妹の不安全てを受け止めるかのように抱擁する。

「……わかった」

 兄が大丈夫だと言うのなら、大丈夫だとシャーロアの不安は自然と霧散していく。今までだってずっと――兄の大丈夫は信頼出来た。今まで大丈夫だからと言って今回もそうだという保証はどこにもない。それでもヴィオラの言葉をシャーロアは信じた。それだけのこと。

「でも、今日は一緒にいてね」

 せめてもの妥協点。ヴィオラは頷いた。一度出会ってしまったのなら暫くは一緒にいたい気持ちは同じだ。
 カトレアに抱きついていたリアトリスは、ふと忘却していた出来事を思い出してアークに告げるため、名残惜しそうにカトレアから離れる。

「そういえば、主。――ラケナリアが主の留守中襲って来ましたよ。人数こそいませんでしたが」
「ラケナリアがか?」
「ええ、シャーロアが華麗なる魔導で倒していましたけど」
「ふーん。リアトリスは何していたんだ?」
「私はシャーロアの太股を見ていました」
「はっ……?」
「シャーロアが氷属性の魔導と併用して、体術を披露していたからですよ」
「それはわかった。だが、何故太股なんだ」
「折角でしたから」
「意味わからん」
「冗談ですから。それに裏の意味まで読み取ってい頂きたいところでしたが、それを主に期待するなんて、難易度が高すぎましたね」
「……まあいいや」

 話すだけ疲れると嘆息した後、会話を打ち切る。リアトリスとヒースリア、この二人と会話をするときは途中で会話を無理矢理終了させなければ、夕日が沈んでも会話が続く。
 アークはこれ以上此処で立ち話をしていても意味がないと判断する。ラケナリアの残党――リーダーが生き残っていた以上残党とは言えないかもしれないが、依頼を遂行した以上この街に留まっておく必要はない。新しい依頼をこなすだけだ。最も――機会があればシェーリオル同様、ヴィオラとも戦ってみたいと思っていた。

「じゃあ、兄弟水入らずでどうぞ。リアトリスにカトレア、今日は帰るぞ」
「はーい。じゃあシャーロアまた会いましょーです」
「それでは」

 リアトリスは手を振り、カトレアはお辞儀をする。性格の違いは行動にも如実に表れていた。

「うん、有難うアーク。じゃあカトレアとリアトリスもまたねー」

 シャーロアが手を振る。ヴィオラは内心、シャーロア以外にも油断しないと深く誓った。


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