零の旋律 | ナノ

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「いや、人族を嫌いなホクシアが一緒になんていうとは思わなくて、悪かったな」
「確かに、人族は嫌いよ。だけれど全てを憎んでいるわけじゃない。問答無用で嫌うほど、非道じゃない。だからといって、人族が殺されたところで悲しむわけでもないけど」
「変っているな」
「貴方ほどじゃない。アーク・レインドフの割り切り方は這いっきり言って異常だし」
「真正面から言われるとは思わないし、第一……俺以外もそうだろ」
「そうね」

 思い出されるのは、ハイリ・ユート。半魔族であるラディカルの怪我を治療し、魔族を見ても突然現れた魔族に対して驚きはしたものの、嫌悪の表情はなかった。種族をはなから気にしていないそんな印象を受けた。それだけではない、アルベルズ王国で出会ったカイラと一緒に行動を共にしていた女性も、魔族に対して何の感情も抱いていないように思えた。魔族が現れた時だって視線を軽く移動はさせたものの眉ひとつ動かさなかった。そして、ホクシアの攻撃を軽くあしらったカルミアもまたしかり。

「そういうことだ。まあ、裏なんだけどな」
「そうね」
「裏はそういったことを気にしたりはたいしてしないな。何せ――使えるか使えないかの二択であり、生きるか死ぬか、勝つか負けるか。他人の種族なんて気にしている余裕はないだろ」
「かもしれないわね」

 ヴィオラはアークとホクシアの会話を終始聞きに徹していた。ヴィオラにとってホクシアとアークの会話は新鮮だった。何せホクシアが人族と敵対せずに会話をすることが稀だからだ。
 木々を抜け湖畔に辿り着くと、そこには小さなテントが三つほど並んでいた。
 特に気配を消そうと考えていなかったアーク達の存在にラケナリアは気がつき、武器を構え彼ら――十二人はアーク達を取り囲む。その中の一人、ロングコートを羽織、首にはオレンジの線が入ったマフラーを巻いている三十代半ばの男――恐らくはリーダーが口を開く。

「何用だ」
「ラケナリアであっている?」
「……そうか、お前はアーク・レインドフ始末屋か」
「ご名答」

 アーク・レインドフその名にラケナリアの生き残りは反応する。自分たちの仲間を殺した男が目の前にいる。敵を討たずしてどうすると、一斉に向かって来る。
 アークは手にしているトランプを鋭利な刃物のように投げる、それはラケナリアの首を切り裂く。

「武器用なトランプとして加工してあるだけあるな」

 トランプは途中で湖畔に落下する。ぽちゃんと水音を立てて沈んでいった。

「あっ! てめぇ! 俺のトランプ勝手に投げるな! そして湖畔に落下させるなよ」

 その様子にヴィオラは慌てて怒鳴る。まさか勝手に投げられるとは思っていなかった――そして思い返せばトランプを返してもらっていなかったことに思い至る。額に手を当てて不注意だったことを後悔する。

「後で取りに行けよ!?」
「え、何故だ?」
「お前が落したんだろうが!」

 ヴィオラはその後、再びアーク・レインドフにトランプを使用されてはたまらないとトランプは出さなかった――むしろ戦わなかった。

「相変わらず、戦わなくて済みそうなときは戦わないのね」

 ホクシアがその様子に苦笑いする。ヴィオラとは昔から付き合いがある。その時からヴィオラは戦わなければいけない場面や妹が絡んだ時でないと戦わなかった。
弱いわけではない、その実力の高さはシャーロアを凌ぎ、ホクシアも認めている。事実気配を消したヴィオラの存在をシェーリオルは魔石を狙う魔物と対峙した時気がつかなかった。


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