零の旋律 | ナノ

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「まさか、この色の時にアークと出会うとは予想外だったよ」

 ヴィオラは嘆息する。アークとシャーロアに繋がりがあるのは知っていた。しかし髪色が黒である間は露見する恐れがないとアークと接触することを避けなかった。

「そりゃあ、俺も予想外だよ。そりゃあシャーロアも見つけられないはずだ、いくら自分と同じ色の人を知らない? と聞きまわっていてもその探し人が黒髪で動いていたらな」
「シャーロア? 貴方シャーロアにまで面識があるの?」
「今、レインドフ家のメイドと一緒にいるけど。何ホクシアはシャーロアにまで面識があったのか」

 お互い、知らないところでそれぞれ知っている人との接点が存在した。
 ホクシアは知らず知らずのうちにため息が出る。

「ええ。人族は敵だけど、ヴィオラとシャーロアは別。元々魔族と交流があった村の出身だから、二人が小さいころから交流があるわ」
「成程、それでか。でヴィオラは普段なら黒髪でいるが昔から付き合いのあるホクシアの前だと髪を元に戻すという」
「そういうことだ、袖を離せ」

 手をぶんぶんと振るが、アークは一向に掴んでいる手を離そうとはしない。むしろ剥がそうと思えば思うほど強く握られる。

「俺さ、シャーロアにお兄ちゃん見つけたら教えて欲しいなって言われたから見つけたら引きずって連れていくって約束したんだ。逃げられないようにと思って」
「てめっ、変な約束を妹としているんじゃねえ!」
「逃げないと約束をするのならば離してやってもいい」
「断る! そして離せ」
「断るなら一生袖を掴んだままでいよう」
「ふざけるな」
「あと、使い勝手は悪そうだけど武器として活用する」
「止めろ! ……わかった、わかったシャーロアに会うよ」

 ヴィオラの方が先に折れた。噂に聞くアーク・レインドフの依頼達成率は驚異的で殆ど百%といっても過言じゃない。だからこそ、今までレインドフ家は様々な依頼を受けおっている。信頼が成せる技だ。
 そのアークが約束をしたことならば、余程のことでなければ逃げられないと観念した。決して武器にされたくないからではないはず。
 最も、隙があれば逃げ出そうとは思っている。実の妹であるシャーロアと出会わないようにするために、術で髪の毛を黒髪にしてきたのだ、そう簡単には再会したくない思いがあった。
 シャーロアのことが嫌いなわけでは決してない。この世で一番大切な妹だ。
 可能ならば、四六時中一緒にいたい想いもある。それと同時に一緒にいたくない思いもあった。

「(シャーロアには何も知られたくないし、知らせたくない)」

 ヴィオラは白い手袋をしている掌を見つめる。

「で、アーク・レインドフ。貴方の目的もラケナリアの生き残り?」

 このまま立ち止まっていても意味がないと、アークがこの場に現れた最も高い可能性を口にする。

「ああ、生き残りがいたのなら依頼は完了していないからな。ホクシアもか?」
「私は、ラケナリアが魔族の殲滅を目的にしている、だから殺られる前に殺すだけ」
「成程な」
「邪魔をしないのなら、一緒に行くわよ……って何、その顔」

 呆けた顔をしているアークに、ホクシアは顔を顰める。さりげなく口をついて出た言葉だったが、それでも呆けた顔をされるとは思いもしなかった。


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