零の旋律 | ナノ

V


 シャーロアには同年代の友達がいないに等しい。何時も兄と、自分たちを育ててくれた人たち以外と接することは殆どなかった。情報屋を始めた所でそれは変わらない。一時会話をすることがあってもそれっきり。一抹の寂しさをシャーロアは覚えていた。街を出歩くと友人と楽しそうに歩く同年代の人たちを見ると特にそう感じる。そういう風になることは出来ない、とシャーロアは最初から諦めていた。
けれど、そんな時アーク・レインドフが同年代の少女を連れて来てくれた。最初姿を見た時から心が自然と高鳴っているのを心音で感じ取っていた。

「アークはやっぱ手紙を見たから?」
「ああ、ラケナリアが殲滅出来ていないのなら、殲滅するに他ないからな。依頼は必ずこなす」
「ラケナリアは、ホクートより北西にある湖畔に生き残りたちが拠点を築いているって話だよ」
「有難う。それだけ聞ければ十分だ。シャーロア、リアトリスとカトレアを置いていくから街でも回っていてくれないか?」
「うん。そうする、私――誰かと一緒に買い物に行ってみたいと思っていたんだ。有難う」
「此方こそ」

 アークは背中を向けて軽く手を振り、情報屋の住まいを後にする。目指すは北東にある湖畔。湖畔に行くためには草原を通ってから森へ入り湖畔まで出る必要がある。森は磁気が狂う森で地元の住民であっても滅多なことがない限り近づかない場所であった。
 だからこそ、ラケナリアの生き残りが拠点とするには最適な場所である。
 草原を進んでいると、前方に――かなり遠くに微かだが二人組がいるのをアークは発見した。
 方角からして森へ向かっている。ひょっとしてラケナリアの面々かと視界で確認できるまで近づいた後――走って距離を一気に詰める。
 二人組は気配に気がついて武器を構えたが、その人物が誰だかわかって武器は納めないまでも、臨戦状態は解除した。
 そして、アークは途中で、あと少しでぶつかるというところで止まり――

「お前、ヴィオラだよな?」

 二人組のうち一人の袖をがっちりとつかんだ。まるで逃げられなくする手錠のように。

「……人違いでは?」
「髪の毛の色が変わっていた程度で間違えるか!」
「ヴィオラ、貴方まさかアーク・レインドフとも知り会いだったの」

 二人組のうち一人――金髪に金眼を持つ少女、年齢の割に大人びた雰囲気を醸し出しているホクシアは、やや呆れ顔だった。ラケナリアの生き残りがいる情報を掴んだ時からホクシアはひょっとしたらアーク・レインドフと再会する可能性を考慮していたが、本当に再会するとは思いもしなかった。

「……ああ、そうだよ」

 アークとホクシアから“ヴィオラ”と呼ばれ観念して、袖を掴まれていない方の手で降参とばかりに手をひらひらさせる。因みに掴まれている方の手にはトランプが一枚指と指の間に挟まれていた。

「それでか」

 アークは得心がいった。人族であるヴィオラが、魔族のホクシアと行動していることに対する疑問もあったが、それ以上に――ヴィオラが前々から感じていた誰かに似ている、もしくは会ったことがあるに対する疑問が解けた。
 ヴィオラの髪色は以前の黒髪とは違い、髪型はそのままで髪色は光加減で紫にも青にも見える水色だった。不思議な性質の髪。他に類を見ない色は、まさしくシャーロアと同種。
 それが示すことはただ一つ。シャーロアが探し求めていた兄とはヴィオラのことだったのだ。


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