零の旋律 | ナノ

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 交流都市ホクートに到着する。アークは記憶を手繰るまでもなく、街並みを観光するように歩いてシャーロアの元を再び尋ねる。

「アークだけど」

 ノックを一回してから名前を名乗る。手紙をよこしてきたくらいだ、忘れているわけはないと判断してのことだ。

「どうぞー」

 すぐに返事が返ってきたので、ドアノブを回して中に入る。
 以前より少し華やかになった印象を受け、よくよく見ると机には花瓶の中に一輪のコスモスがあった。
 照明器具も以前来た時は無骨なデザインだったのに対して今回は柔らかい印象を受けるデザインに変わっている。

「そちらのお二人は?」

 水色の――光加減によって青にも紫にも見える肩までで切りそろえられた髪を揺らしながら、青い瞳がアークの後ろにいるリアトリスとカトレアを興味深く眺める。

「リアトリスとカトレア。うちでメイドしている二人だ」
「そうだったの。私はシャーロア、宜しくね」

 同世代の少女が嬉しいのか、アークの後ろにいる二人の元へ歩いていき、手袋をした手を伸ばす。

「私はリアトリスですー宜しく」

 最初に活発なリアトリスが手を握る。

「カトレアです、よろしく」

 控え目にカトレアが次に手を握った。少し恥ずかしいのか姉のスカートを軽く摘まんでいる。

「椅子が足りないから部屋から持って来るね」

 シャーロアは二つしか置かれていない椅子だと、二人しか座れないと部屋にある他の椅子を取りに奥にある扉を開ける。

「ちょっと待っていて―」

 その足取りは最初に出会った時よりも軽く感じられた。

「主の言うとおり、情報屋っぽくないですね。ただの少女にしか見えないです」

 リアトリスがアークの隣に来て耳打ちする。

「だろ? じゃなきゃカトレアを連れてこようとは思わない。シャーロアがいいっていったら俺が仕事している間、一緒に街でも見回ればいい。カトレア好みの店とかもあるし」
「それは名案です。さっそく実行しようと思いますよ」

 小声で会話をする話の内容をカトレアは聞きとれず軽く首を傾げるが、内容を問うことはしなかった。
 シャーロアが椅子を二個引きずって扉を聊か乱暴に開ける。両手がふさがっているためか、扉を開けておくために足を使っている。

「手伝いますよー」
「有難う」

 リアトリスが椅子を軽そうに持ち運びアークの隣に置く。続いてシャーロアもそこに置いた。

「それにしてもアークはなんで、私の所にリアトリスとカトレアを?」
「リアトリスとカトレアは同年代の友達が少ないから、友達になれないかなと思ってな。迷惑だったか?」
「そんなことはないよ! 私も同年代のお友達とかいないから……嬉しい。有難う。始末屋って物騒な名前だけど優しいんだね」
「シャーロア、駄目ですよ。主は見かけも中身も優しさは〇パーセントで構成されているんですから。しかも欲深いんですよ、欲しいと思ったものはどんな手段を使っても手に入れようとするんです」

 優しい、の単語に反応してアークが返答する前にリアトリスが抗議する。すらすらと言葉を連ねるリアトリスにシャーロアは自然と笑みが零れた。


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