零の旋律 | ナノ

治癒術師驚愕


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 ハイリ・ユートはレインドフ邸にいた。屋敷の主であるアークに呼ばれたからだ。呼ばれるなんて珍しい、何事だ、また風邪でも引いて今度こそ屋敷崩壊の危機かと危惧しながら向かい、アークの部屋に入ろうと扉を開けて――閉めた。

「待て!」
「ありえないありえない。俺は何も見なかった。俺は何も知らない。今ならアークの首が取り放題な事態で屋敷が危険極まりないことになっていることなんて俺は知らない」

 扉の外でハイリは困惑した。アークが包帯を巻いている、その事実が信じられずに。

「お前どんな猛獣と戦ってきたんだ!? 世界を滅ぼす大魔王でも倒したのか!?」

 扉を勢いよく開けてアークに近づく。遠目で見た時と変わらず傷は浅くない。
 ハイリの混乱は深まるばかりだった。それほどまでにアークが怪我をする事態が想像つかなかった。

「なあ、アーク。本当にお前は一体どこで大魔王を倒して世界を救ってきたんだ!?」
「俺は大魔王と戦わないと怪我はしないと思われているのかよ!」
「あたり前だ! 何を今さら」

 床を思いっきり杖で叩くハイリだが、床は絨毯が敷かれていて衝撃の半分は吸収されあまり音は響かなかった。

「で、真面目になんで大魔王と喧嘩した?」
「大魔王と喧嘩前提に話を進めるな!」
「騒ぐな、傷口が開くだろ」
「リィハのせいだ!」
「仕方ない。魔王と何故喧嘩した」
「ランクが少し下がっただけで特に変わっていないじゃねぇか。単純に三日三晩働いて力尽きた時に襲撃されただけだ」
「馬鹿じゃねぇの?」

 杖の先端でこんこんとアークの頭をつつく。ハイリは半目になって呆れていた。仕事中毒なのは昔から変わらないが、よく今までそんな体質で生きてこられたなと再度思う。

「で、とりあえず治せ」
「治すけど、どーせすぐに仕事に飛び出すんだろ? 三日は安静にしろ」
「え、三日も!?」
「あたり前だ馬鹿。三日三晩動いたなら三日三晩動くな」

 ハイリは一番傷が深いわき腹に手をかざす。普段は手袋をしているハイリだが、今日は外していた。銀のシルバーブレスレットに付着している淡い桃色の魔石が光る。

「暇だ、何をすればいいんだ」
「見合い写真でも見ていろ」
「見合い写真かあ……」
「まあそんなどうでもいいことは置いておいて」
「最近お前、ヒースやリアトリスに似てきたな」
「はあ!? 百歩譲ってリアに似てきたとしても、あいつには似てきてなど断じてない!」
「ヒースもリアトリスも似たような性格しているだろうよ。そうだリィハ」
「何だ?」
「お前の彼女はいつ紹介してくれる」

 わき腹を殴った。

「殴るな!」
「あいつは彼女じゃないってのっ」
「あいつですぐに通じるんだ。彼女だろ」
「ってかアークには一生会わせねえって!」
「なんでだよ」
「誰が戦闘マニアと戦闘狂を会わせたいって思うんだよ、なんで俺が修羅場を作ってあげなきゃいけないんだ」

 ハイリの本人否定、アークいわく彼女は戦闘マニアであった。だからこそハイリはアークとはまかり間違っても出会わせたくなかった。惨劇になるのが目に見えている。

「回復祝いってのでどうだ?」
「一生回復しないようにしてやる」
「ならお前らの結婚祝いには呼べよ」
「彼女じゃないと何度言えばわかる! 人の話を聞け!」
「はいはい、わかったって」
「絶対わかってないだろ」

 ハイリは心の底から治療するのを止めようかと思い始めたが、結局治療をするのであった。


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