U +++ アークが発砲した反動を煩わしく感じる。普段なら全く気に留めないことなのに、やけに反動が重い。 ラケナリアは懐に潜り込もうと銃弾を交わし、着実にアークへ近づく。 アークが回避動作を取るより早く、ナイフがアークのわき腹を抉る。 「つっ……!」 アークは痛みを無視して足をけり上げる。素早くラケナリアは交わす。草が数本宙に舞った。 傷は浅くない。けれど、久しぶりの痛みは鮮明に伝わってきて、少しだけ目が覚めた。 アークは服の中に仕込んであるレイピアのような細身の三十p程度の剣を取り出し、拳銃を地面に投げ捨てる。 「はははっこんな時じゃなきゃ、盛り上がったんだけどな」 「盛り上がって頂かないために、わざわざ待っていたんだ――お前が最後の一人を殺すときを」 「……成程」 尾行されていれば気がつかないはずがない。けれど、アーク・レインドフを尾行していたのではなく、始末してくれと言われた相手側についていれば話は別になってくる。 「最初からそれを利用していたんだな」 「レインドフは依頼を断らないからな」 依頼人もならばラケナリアの人か、もしくは――脅迫されたのかの二択だろう。 「因みに依頼人は脅迫した」 後者だった。始末される人族側に常にいてアークが彼らを殺していくのをただ待っていた。時が来るのを。そうして訪れた復讐のチャンスを逃すわけがない。武器を幾重にも仕込み、万全の準備をしてある。後はアーク・レインドフを殺すだけ。 剣を構えたアークはラケナリアに向かい、一瞬で背後をとる。刃を振りかざそうとしたが、袖口に仕込んであった籠手に邪魔され、刃が届かない。後方に退き、体制を変える。 「レインドフの実力の高さは噂で知っている。準備を怠るわけがないだろう」 ラケナリアは素早くナイフを捨てて、コートを捲ると同時に腰に巻いてあるホルスターから拳銃を取り出し発砲すると、アークの右足首に命中する。 「ああ、そうかい。光栄なことだな」 アークは顔を顰めながら、疲れ切っていながらそれでも――武器は手放さない。 左太股に二撃目が命中する。白いズボンが真っ赤に染まる。それと同時に、肩膝をつく。 三日三晩働いた後の力尽きた状態では、痛みを無視して戦うことも厳しかった。 まずいな、とアークが思った時、場違いの足音が聞こえる。 誰だ、と誰しもが思った時、木々の間からこの場にいることが場違いな程、幻想的雰囲気を醸し出し人々を魅了するだろう美貌の持ち主が姿を現した。赤と白で彩られた人物――ヒースリア・ルミナス。 「何やっているんですか……?」 ヒースリアはとても不思議そうに、そして機嫌悪く眉を顰めた。 「私が折角そろそろぶっ倒れている所でしょうからと迎えに来たら、血まみれとは中々傑作ですね」 口を開けば罵詈雑言が飛び出すヒースリアにしては控えめの表現だ。ラケナリアは突如現れた謎の人物に目を丸くする。 「ああ、申し遅れました。私はこの馬鹿主の元で、何があったのか執事をやってしまっている者ですよ」 二コリと営業笑いでも愛想笑いでもすれば美しいのだが、ヒースリアは眉を顰めたままだ。しかし、それすらも絵になるのは流石というところか。 「そうか」 「全く主が油断するなんて――しかし、主が血濡れた様は気分がいいですね」 「……」 ラケナリアはコメントのしようがなかった。何故なら、本当に気分が良さそうに口元を歪めているからだ。 「お前なあ」 いつものこととは言え、アークは呆れ顔だ。 [*前] | [次#] TOP |