零の旋律 | ナノ

執事目的


+++
 アーク・レインドフは仕事でシデアルより北東にある場所、周辺を森に囲まれた街“ルトリア”に訪れていた。森に囲まれているため、街全体は小ぢんまりとしたイメージを彷彿させるが、しかし実際は街並みが整理されていて人口は多い。そこでアークは三日仕事をした後、逃げたある人物を殺害するために森へ踏み込んだ。その人物は森から一キロ程度離れた所で見つかる。アークは仕事を完遂した後、手を口元に当てて大きく欠伸をする。

「ねみぃ……疲れた」

 三日三晩、寝ず食わずで働けるアーク・レインドフだが、その後は力尽きる。その為執事か稀にメイドがアークを拾いに来るのが日常だった。最も毎回アークが力尽きるわけではない。
 アークはその場で横になり一休みを考えていた時だった。殺気を感じ反射的に身体を振り向き、軸をずらす。その瞬間、ナイフがアークの左腕を掠めて、木に突き刺さる。左腕を血が流れ、腕を伝って指先を赤く染める。

「あ……」

 普段のアークなら難なく交わせる。しかし眠くて空腹で力尽きかけているアークには難しかった――相手がかなりのテダレなら。

「誰だ?」

 アークは頭をかく。負ける自信はないが、正直いって勝てる自信もない。その辺の雑魚ならいくら力尽きていようと瞬殺出来る実力はある。しかし普段のアークが――戦闘狂であるアークが戦いたいと思うほどの実力者であれば、瞬殺は出来ない。木々をかき分け、一人の青年が姿を現す。オレンジと黒の服装に身を包んだ人物。その色合いにアークは見覚えがあった。

「……ラケナリアか、あれって全滅したんじゃないのか」

 欠伸が止まらない。

「殆ど全ては全滅したが、まだ生き残りはいるんだよ」
「復讐?」
「当然。部下どもをよくも殺してくれたな」
「何故、俺だと?」

 正直会話をするのも面倒だった。けれど、気になる所もある。何故、レインドフ家がラケナリア殲滅に関与していたことが露見しているのか、ということ。
 あの場にいた相手は全員殺した。生き残りがいない以上、目撃者も証人もいないはずだ。

「こっちだっていろいろ調べ回ったんだよ。他にも何人かいたらしいことまでは掴んでいるが、しかし誰だかは判明していない。しかしまあ、運が悪いよな。レインドフの名前は有名すぎた」
「ふーん」

 アークはいましがた殺したばかりの男が自分に刃を向けてきた武器――拳銃が草と草の間に隠れているのを足で蹴飛ばし宙に浮かせて手に取る。

「随分とタイミングがいいことで」

 普段のアークよりテンションが低いのは、眠いからだ。油断すると瞼が閉じてそのまま眠りにつけそうだった。ナイフが再び投擲される。今度は銃で向かって来るナイフに向かって打つ。刃の部分にピンポイントで辺り、ナイフは衝撃で破損する。
 アークは走り出す。銃弾が後何発残っているのかわからないが、いざとなれば魔導で弾を創り出せばいい。
 ラケナリアの生き残りも復讐するために新たなナイフを取り出す。
 刃と銃がぶつかり合う。アークの足が後ろに押されているのを感じ、すぐさま後方に飛び退け発砲する。顔面に飛んできた弾をラケナリアは確実に見切って交わす。至近距離の発砲であれば交わせなかったかもしれないが、アークが後方に下がったことで交わす距離を稼げた。
 何より、今のアーク・レインドフは弱っている。好機を逃すわけにはいかない。


- 125 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -