V 「断りますよ。私が探して上げる義理も理由も何もない」 「カサネ……」 「王子は気にしなくて大丈夫ですからね」 カサネは右足に軸を置く。 「アンタのことを少し調べさせてもらった」 「何をですか?」 「アンタの実績をさ。異常なほどにいい実績。人を探してくれないか」 「二回目ですが、お断りします。第一私には何の得もありません、それとも武力で強制的に従えますか?」 「それもいいかなとは思ったが、それはしない。意味がないからな」 「では、お帰り下さい」 カサネは終始冷たい反応しかしない。しかし、青年はいくら断られようと一歩もそこを動かなかった。 「俺の息子を探してほしいんだよ」 「貴方の息子が例え家出少年だったとしても、私に探して上げる義理はありませんよ」 「知っている。それでも探してほしい。もう――何年も、いや十何年も会っていない。一目会いたい」 青年はずっとずっと探し続けてきた。けれど、息子が見つかることも、息子の軌跡を見つけることも叶わなかった。姿も気配も何もない。もしかしたらもう死んでいるのかもしれない、そんな不安が何度も青年を襲ったが、それでも青年は生きていると信じて探し続けた。けれど、一人で探すのに限界を感じていた。そんな時、ホクシアと祭典を襲撃した。襲撃した時、予め魔族以外の人族が襲ってくることを最初から見越して布陣を組んでいたカサネ・アザレアの姿を発見した。 彼が探してくれれば、息子が見つかるかもしれないと淡い期待を抱いた。 「なあ、頼む」 頭を下げる。可能性があるなら何にだって縋る。 「ねえ……カサネ、探してあげなよ」 真摯な姿、本気で探してほしいと思っている姿にエレテリカはカサネに探してほしいと思った。 普段なら、カサネは王子が言うならといって了承するところだったが、しかし今回は違った。 「いいえ、王子。探して上げる必要はないと思いますよ。それに十数年出会っていなかったのなら既に死んでいる可能性もあります」 エレテリカが言っても、カサネは一向に息子探しを手伝う気持ちは微塵もなかった。 「でも生きている可能性も」 「勿論、ありますよ。しかしだからといって私は息子探しに時間を割くつもりはありません」 断言する言葉に、エレテリカはこれ以上何を言ってもカサネは自分の意見を譲らないと判断し引き下がる。 青年は下げていた頭を上げる。 「わかった。けれど――もし探してくれる気になったら、そして見かけたら教えてくれ」 「……何故、そこまでして息子を探したいんですか」 「今までずっとほったらかしにしてしまったからだ」 「そうですか」 「俺と同じオレンジ色の髪に、金の瞳。生きていれば、現在の年齢は二十八程度のはずだ。名前はカザネ、だと思う」 「カザネ、私と似た名前ですね」 「ああ、俺もびっくりしたよ。だから名前のよみしで探してくれ……」 「お断りします」 「まあ、気が向いたらでいいや、頼むよ」 青年はフードを深めに被り、金の瞳が見えないようにする。そして街に用があるのか、カサネとエレテリカの前を通り過ぎる。カサネは終始ナイフを構えたままだったが、結局一度も攻撃しなかった。 青年に戦意がないのなら、此方から仕掛けて王子を危険にさらす必要はないと判断したからだ。 元々、カサネは白兵戦が得意ではない。得意なのは毒殺だ。 「王子、もう少し奥まで言って癒されましょう」 「う、うん」 カサネがそう願うのなら、何も言う必要はない。 二人は景観な場所で二十分程度、リフレッシュしたのち、城へと戻る。外出中は誰も第三王位継承者とその側近である策士だとは誰も気がつかなかった。 [*前] | [次#] TOP |