零の旋律 | ナノ

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「王子、何処に行きますか?」
「少し街外れの方がいいかな」
「では、途中で甘味でも買いましょうか」

 丁度街外れの方に、カサネが贔屓している店があり、そこへ向かう。
 店内に入ると、内装はそこそこ小奇麗だが、王族であるエレテリカが普段は足を運ばないような店であった。最も、カサネはその方がエレテリカは喜ぶと知っている。エレテリカはあまり高級感を見せびらかしたような装飾は好まなかった。カサネが贔屓しているだけあって、店員はカサネのことを常連客として覚えていた。初めて訪れたエレテリカに対しても愛想がよく、饅頭を一つおまけで皿に盛ってくれた。

「うん、流石カサネが選んだ店だね。美味しい」
「良かったです」

 ちなみにカサネはエレテリカの倍食べた。カサネ・アザレアは甘党だ。
 カサネが料金を精算し、再び道を歩く。途中で大理石をふんだんに使用された、見るからに高級そうな噴水の前を通る。太陽の光が燦々とする今日、噴水から噴き出る水によって僅かに虹がみられた。

「いい天気だね」
「そうですね」

 カサネもエレテリカもお互い一緒に散歩するのが好きだった。長時間出歩くことは、策士として活動するカサネにとっては時間の無駄だろうとエレテリカは思っている、だから偶にしか誘わない。

「森林浴でもしない?」
「勿論構いませんよ」

 街から少し離れた場所にある森へ向かう。新鮮な空気が身体の中を廻っていく。

「……カサネ」

 エレテリカが先に反応し、少し遅れてカサネも反応する――足音に。
 カサネたちと同様に森林浴にでもきていたのだろうか、前方からフードを深めに被った人物が歩いていく。ボアつきのコートを羽織、中は何処か紳士然とした服装に身を包んでいて、その服装の組み合わせは聊かミスマッチだった。フードで瞳は見えないが、髪色はカサネと似たオレンジ色だ。
 足音はカサネとエレテリカを通り過ぎることはなく、一定の距離を保ったところで歩みをとめた。偶然、ではない。

「何用ですか」

 カサネは鋭い眼光でその人物を睨む。袖に仕込んである鎖付きナイフはいつでも取り出せるよう手の位置を動かす。エレテリカを守るため――最も、白兵戦においてはエレテリカの方が優れているが――前に出る。

「策士カサネ・アザレアってのはアンタだよな?」
「ええ、そうですが」

 その人物はカサネのことを確認すると、フードに手をかけフードを下ろす。カサネはその瞬間、袖口からナイフを取り出し前に構える。オレンジ色の髪がぱさりと揺れるのと同時に金色の瞳がカサネを一点に見ている。

「魔族、ですか」
「……俺は別にアンタを殺したいわけでも、殺そうとしているわけでもない。ナイフを下ろしてほしいな」
「御免ですよ」

 きっぱりと切り捨てる。その冷たさは何時のもカサネのようで――何処か違っているようにエレテリカには感じられた。それは相手が魔族だからか、とエレテリカは判断する。

「俺はアンタに頼みがあって来た。その類まれなる頭脳である人物を探してほしくてな」

 魔族――年の頃合い二十代中ごろに見える容姿、その顔にカサネは見覚えがあった。祭典を襲撃してきた魔族の一人だ。ホクシアと一緒の魔物に乗っていた、他の魔族よりも実力が高そうな油断ならない人物。


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