零の旋律 | ナノ

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 アーク・レインドフはカサネ・アザレアと共にカサネがとったホテルの一室にいた。

「今回は無音の彼はいないんですね」
「あんま、無音無音いうな。殺されても文句はいえねぇぞ」
「じゃあ他の名前で呼ぶべきですかね? ヒースリア・ルミナスなんていう偽名じゃなく」

 珈琲を口にしながら、向き合う。広い部屋の中、いるのはアークとカサネだけ。

「瞬殺されるだろう。それこそ無音のうちに」
「まぁ詮索しない方が長生きのコツでしょうし、ここいらで無駄話はやめておきますか」
「重要そうな会話に見せかけて無駄話なのかよ! あいつは無駄話で止めていいレベルだったっけか?」
「突っ込みが長いです」
「俺は駄目だししかされないのかよ」

 硝子テーブルの上にカサネがオーダーしたガトーショコラを口にする。生クリームの程良い味が食べるペースを進める。

「で、やはり魔族は王室にも手を出すつもりなのですね?」
「わかっていることを俺に調査させる当たり金銭の無駄遣いだと思わないのか?」

 カサネ・アザレアは目途を最初からつけていた。魔族の目的も知っていた。
 それでも魔族の口から直接知りたくて、その為だけにレインドフ家を利用した。
 推測を確証へ変更させるために。

「それで確証出来るのならば、私はいくらでも。それに私は貴方のその仕事中毒ぶりは認めていますから」
「お前に褒められても特に嬉しくもないな」
「嬉しいと言われても困りますし。まぁ、魔族が本当に人族を滅ぼすつもりできているのなら、此方とて黙って手をこまねいているわけにもいきませんし」

 エレテリカに害を成す存在なら――。

「レインドフ家はどうするのですか? どうせ禍根に巻き込まれない人族はいないでしょうし」
「レインドフ家は依頼があれば、仕事をするだけだ。それこそ魔族が人族を殺してくれって依頼してくれば、俺はその依頼を受けるさ」
「でしょうね」

 障害になる可能性があるレインドフ家を殺すか――カサネの脳内に何度も考えた疑問が過るが、カサネはそれを打ち消す。どの道レインドフ家を消すのには時間がかかる。
 それ以外の事を優先して行うべきだと、何度目かの同じ結論を出す。

「お前は、それこそ珍しいな」
「私がレインドフ家に魔族を殺してくれって依頼すると思っていました?」
「半々」

 あの時依頼したように。魔族を殺せとカサネ・アザレアが依頼する可能性をアークは抱いていた。それを一蹴する。

「今はしませんよ」
「一蹴するような言い草な癖に、今は、なんだな」
「今は時期尚早すぎますからね。それに王族に手を出すのが後なら、身辺警護を強化したりするだけで対応はなんとかなりそうですからね、それより――魔族の暴動に準じて色々やる方が都合のいいこともあるでしょう?」

 だからこそ、まだ手出しはしない。何時魔族が王族に手を出してきても対処できるように準備をするだけ。
 そして、その準備はもう終わっている。アーク・レインドフに依頼を出す前に。魔族の事件が活発化してきた段階で終わらせていた。抜かりはない。それが策士。

「全く、大層な悪役で」
「貴方だって同類でしょうが」
「確かに、俺は例えどんな聖人君子だろうと依頼があれば殺す。だが、お前とは別だ。同類だったとしても、詳細は違う。同じにされたくはない」
「依頼で殺す貴方と、感情で殺す私では全然違うでしょうね」
「そういうことだ」
「依頼主にも情を抱かないし、殺害相手に情も抱かない。けれど、私は私の目的の為に動き、殺害相手に情を抱く。それが憎しみだろうが、なんだろうが。情を抱かない時もあるにはあるでしょうが」


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