零の旋律 | ナノ

魔導師探索


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 シェーリオル・エリト・デルフェニは二度目のレインドフ邸を訪れていた。相変わらず庭は景観だ。花壇には花々が咲き乱れ、花が好きな王妃シルメリアが見たらさぞかし喜ぶだろうなとシェーリオルは景色を眺めながら思う。それほどまでにレインドフの邸の庭は美景だった。始末屋と呼ばれようが、貴族だと有無を言わせず証明できるほどの豪邸だ。

「おかえりでーす主。ありゃりゃ……お客さんですね」

 エントランスホールで偶々掃除――箒を振り回して遊んでいたリアトリスが、扉が開く音がして振り向くとアークとヒースリアの他に一人増えていた。お客さんですね、の部分はリアトリスにしては声色が低い。

「ああ、リーシェ王子に魔石でもあげようかと思って」
「無償奉仕ですか? 主らしくないですねえ」
「……はいはい」

 言い返すだけ時間の無駄だと判断し、アークは会話を中断する。それでも普段なら突っかかって来るリアトリスだったが、今回はなかった。

「では、主。私はリアトリスとティータイムを楽しみます。旅の疲れを癒すのでくれぐれも邪魔はしないでください」
「俺の分を用意するつもりはないんだな」
「ええ。百歩譲ってリーシェ王子になら出して差し上げてもいいですが、主に出すなんて御免です。主が美味しいお菓子を作って下さるのでしたら考えても構いませんが」
「……いいよ、自分で用意するから」

 さりげなくお菓子を要求されていたが、聞かなかったことにアークはした。
 内心シェーリオルは、百歩譲らないと紅茶を入れてくれないのかと呟く。彼らのやりとりは確実に主従関係を超えているし、そもそも執事と主の立場ではないだろう。最も、それをシェーリオルが言える立場ではないのだが。

「じゃあリーシェ。物置に行くぞ」

 シェーリオルは遠慮しないで魔石を貰おうと心の中で決意した。物置に魔石を放置されているとは、流石に露にも思っていなかった。
 物置を開けた時だった――中に人がいた。

「えっ……あ、おかえり」

 扉をまさか開けられるとは思っていなかったのだろう、背中がびくりとしたのがわかった。薄い黄色の髪の毛はお下げにして縛っている。大人しい色合いで統一された服を着た少女――カトレアがいた。

「ただいま。珍しいなカトレアがこんな場所にいるなんて」
「うん。ちょっと探し物していて。何でここに?」
「魔石をリーシェに……ああ、カトレアは知らないか。このヒース見たく顔立ちが整った奴、シェーリオル・エリト・デルフェニってリヴェルアの王位第二継承者」
「どんな紹介だよ。特にヒース見たくの下りはなくても支障がない気がするんだが。初めまして。シェーリオルは長いから、リーシェでいいよ」
「初めまして、カトレアです」

 カトレアはペコリとお辞儀をする。それにならってリーシェも胸に手を当ててお辞儀する。

「で、カトレア。探し物は見つかりそうか? 何なら探すの手伝うが――リーシェと」
「俺もかよ。まあ別に構わないが」
「有難う。でも、いいの? 用事があって此処に来たんじゃ……」
「気にするな。リーシェに魔石をあげるために来ただけだから」
「俺の優先度低いよな」
「細かいこと気にする性質じゃないだろ?」
「まーな」

 魔石発掘――を後回しにしてカトレアの探し物が開始された。

「で、どんなだ? 物置に探すなんて珍しいじゃないか」
「えっと主から貰ったのをお姉ちゃんが、そんなの大切にしていたら黴菌が移ります―っていって」
「俺からのプレゼントを黴菌扱いするなよ!」
「で、ここなら黴菌の増殖を抑えられるからって」
「……」
「でも、折角貰ったものだしと思ってこっそり見つけにきたんだ」
「カトレアは癒しだなぁ」

 アークが感激しているように感じたシェーリオルは、やっぱりレインドフ家は絶対変だと確認しながら、物置とアークが表現した場所をまじまじと眺める。


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