零の旋律 | ナノ

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「ならば何故ですか?」
「そこがわからないから、俺は調べに来た。この魔物は確実に普通の魔物ではない。魔石は魔力の結晶といってもいいものだ、つまり、高位な魔石であればあるほど魔力の力が強い。だから、魔物は高位の魔石を狙う」

 ヴィオラは魔物の元へ近づく。毛を撫でるように――触れていく。

「けど、本当に何故だっ……!?」

 一瞬手を離す。

「どうした?」
「……いや、何でもない」

 再び、毛を撫でる。顔色は真剣そのものだった。

「……やっぱ俺としては納得できないところだ、他に魔石を狙う魔物の目撃証言はないが、今ないからといって是からもないとは限らない」

 考えても結論は出ない。ただわかるのはこの魔物が普通ではないこと。

「一ついいか? 魔石を狙う魔物は確かに特異だが、けれど――何かが困るようなことにはなるのか?」
「それもそうですねえ、魔石を狙うことに変わりがないのならば、人族の大半は魔石を所持していますからいつも通りであり、あえて言うのならば魔物から逃げる手段が出来る、というわけですよ。最も、魔石を体内へ入れた魔導師には不可能でしょうが」
「後は、今まで狙われることのなかった魔族が標的になるということか」
「そうですね」

 アークとヒースリアの言葉は最もだった。魔族とて魔物に容易に殺される程の弱くはないし――人族が狙って来るよりも性質は悪くない。魔族は魔物と今回の魔物の区別がつく。魔力を狙う異常、執拗に狙い続けるだろうが、それも交わす術がないわけではない。
 ただ――今までとは少し違うだけだと見逃せない理由もヴィオラにはあった。理由だけではない、見逃してはいけないと直感が告げている。

「それでも、是は異変だ、お前らにとっては見逃せることでも、俺にとっては異常だ」
「詐欺師って名乗っていた割には魔物学者みたいなことも言うんですね」
「俺は詐欺師だって名乗っていたわけではない」
「では値札」
「売り物じゃない!」
「売値」
「売るな! ってなんで俺がヒースリアとレインドフみたいなやりとりをしなきゃいけないんだよ」

 ヴィオラは途中で是ではアークと変わらないと無理矢理会話を打ち切る。ヒースリアはにこやかだった。

「おい、レインドフ。あいつは何時もああなのか?」
「あぁ。とりあえず俺名前はアークだから。知らなさそうだから一応」
「じゃあアーク。何であんな執事を雇っているんだ? 口調が丁寧なだけで性格悪いだろ」
「色々あって」
「色々?」
「具体的に言うと、俺が前の執事をうっかり殺してしまったからだ」
「どういう経緯だよ! うっかり人を殺す状況って何だよ。あぁもういい。お前らといたらツッコミ役が定着しそうだ。俺は帰る」

 そしてレインドフと王家には近づきたくないと言って、三人から離れる――時もシェーリオルには近づかないようにして走って行った。木々の間を爽快に駆け抜けているのだろう。


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