零の旋律 | ナノ

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「漫才じゃないのですが……。私はヒースリア・ルミナスです。馬鹿主の元で執事やっています、主な仕事内容は主の回収」
「それ、執事の仕事じゃないから、まあ宜しく」

 一応手をさし伸ばすヴィオラだったが

「他人と仲良くする趣味はありませんので」

 ヒースリアから清々しいくらいきっぱりと断られる。

「俺はまあ、知っているみたいだったけど、シェーリオル・エリト・デルフェニ」
「宜しく」

 今度は断られなかった。シェーリオルはヴィオラの手を握る――ヴィオラが逃げた。脱兎のごとく。

「は?」
「え?」

 そしてアークの後ろに隠れた。

「何しているんだ?」
「いや、えーとそのあの」

 若干怯えていた。

「おい、俺はお前と握手して逃げられるような心当たりはないんだが」
「あーと、悪い。咄嗟に思わず」
「……」
「珍しい条件反射だと思ってくれ」
「わかったよ」

 しかし一向にアークの後ろからヴィオラが出てくる様子はなかった。

「……で、何故お前は気配まで隠していたんだ?」

 アークが問う。ヴィオラはようやっとアークの背後から離れ――それでもシェーリオルとは距離を置いていた。

「気配を隠したかったのは、お前たちに対してじゃない、確認したいことがあったんだ。だから――魔石を持っている人であれば誰が魔物討伐にこようと構わなかった」
「どういうことだ? なら気配を隠したかったのは――魔物に対してか?」
「そういうことだ」
「あの魔物は何だ? 魔石を狙うのは知っていた。けれど、狙う相手を次から次へと変えたのは何故だ」
「俺だけじゃなく、その答えはシェーリオルも知っていると思うぞ」

 ヴィオラの言葉に、アークはシェーリオルが自分たちと最初距離をとっていたことを思い出す。それが意味のない行動ではなく、最初から意味がある行動だとすれば――

「あの魔物は、魔石が高位であればあるほど、その魔石を破壊しにかかる」

 シェーリオルが答える。

「成程な、ヒースリアのそのブローチとして使用している魔石も高価なものだ、俺が持っている魔石よりも――そして、ヒースリアの魔石よりリーシェの魔石がさらに高価ならば、必然その魔石を持っているシェーリオルを襲い、そしてその魔石を受け取った俺を襲ったというわけか」

 合点がいった。だからこそ、魔物はヒースリアの方へ飛ばされた後はアークを眼中に入れなかった。それは目の前にもっと高位の魔石が存在したから。より美味しい食べ物を食べようとするかの如く。

「そういうことだ」
「なら、あの策士様は最初からそれを狙っていたわけか」

 タイミングよくシェーリオルが自分たちの前に現れるはずがない。策士カサネ・アザレアが最初からアーク・レインドフが魔物討伐の依頼を受けることを知っていればそこにシェーリオルを合流させることなどぞうさもない。

「そういうこと、けど――何故あの魔物が魔石を狙うのかはわからない。やっぱり魔族のためか?」
「いや、違う」

 即効否定したのはヴィオラだった。首を横にも振っている。

「この魔物は魔族をも狙った。つまりこの魔物が狙っているのは魔石ではなく正確には魔族なんだ」
「魔物の反逆か?」
「いいや、それもない。魔物は命令系統が上位である魔族には逆らえない。魔物は魔族に従うものであり。その命令を拒否することはできない。血の流れによる支配があるからだ」

 ならば――何故、この魔物は魔族を狙う、そして狙うことができる。


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