零の旋律 | ナノ

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 アークは、魔物が出没しているという場所を依頼人とのやりとりの最中地図で教えてもらっている。地図は荷物になるので持ってきていない。依頼人からの話では、今までも魔物を討伐しようとして向かった討伐隊がいたが、悉く返り討ちにあっていた。

「ってリーシェ王子。何で俺たちから少し離れているんだ」

 魔物の目撃情報がある場所は、森の中でも――嘗て広場を作ろうとしていた名残か、木々がなく広々としていた。それは人にとっても魔物にとっても戦いやすい場所である。見晴らしもいい。
 その場所に到着した時、シェーリオルはアーク達と距離をとっていた。ヒースリアはシェーリオル程ではないが、やはりアークとは距離をとっている。しかし此方は何時ものことなので気にしない。シェーリオルが返事をする前に、アークが素早く反応する。草の芽を分けるような音。
 背後から近づいてくる確かな殺気にアークは口元に笑みを浮かべる。濃い紫色の毛をし――頭部に二対の角を持つ魔物が現れる。赤い瞳がアークを殺さんばかりに射抜く。
魔物が突進してきた時、アークは右足払いで魔物のバランスを崩す。崩した魔物は勢いを殺しきれず運悪くヒースリアの方へ飛んできた。魔物は木に激突する。

「馬鹿主! 私が怪我でもしたらどうするのですか」
「お前なら平気だろうが」
「私の美貌に一ミリでも傷がついてみなさい、一生後悔しますよ!」
「知るかっ!」

 魔物を相手しながらもやりとりは何時も通りだ。怒り狂った魔物がアークの方へ突撃するだろうと踏んでいたヒースリアはそこで予想外の目に遭う。魔物はターゲットを変えヒースリアに向かってきたのだ。

「はあ?」

 ヒースリアは呆ける。魔物が食いかかろうと爪を繰り出してきた。身体をかがませ足の軸を変え交わす。優美な動作でおまけとアークに魔物を返すように方向を変えて交わした。しかし、アークの方には興味がないと言わんばかりにヒースリアをしつこく攻撃する。

「なんで私なのですか。私に戦闘狂の血は流れていませんので、あちらへ行って下さい」

 魔物に対話しようとするヒースリアだった。

「おい! レインドフは別に戦闘狂の血筋じゃない!」

 抗議の声。しかし魔物はアークの方へ移動しない。ヒースリアばかりを執拗に狙う。
その時、今まで距離を置いていたシェーリオルが動いた。ヒースリアとは反対側、つまり魔物の背後に移動する。シェーリオルは別段殺気を放っていたわけではない。けれど魔物はヒースリアに興味を失ったのか、シェーリオルの方へものすごい方向転換をする。風でヒースリアの髪の毛が顔に当たる。

「ふーん、やっぱりか」

 今までのよりさらに早く鋭い牙をむける魔物だが、シェーリオルの身のこなしは魔導師とは思えないほど軽やかだ。
 シェーリオルはネクタイピンとして留めている魔石をネクタイから取り出し、それをアークに投げる。弧を描いて綺麗にアークの元まで届く。咄嗟にアークはそれを受け取った。
 受け取った瞬間――魔物がまたターゲットを変えた。今度はアークの方へ向かっていく。

「どういうことだ? 魔石……? まあいいか」

 此方へ向かって来るのならば始末するまでだ、とアークは一瞬だけ走り出しシェーリオルの前を通り過ぎる。シェーリオルの前をシェーリオルに対して興味を失った魔物が続いて走り去る。
 アークは木がある場所まで走り、木を踏み台とし木を駆け――そのまま後方にジャンプし魔物背目掛けてサーベルを突き刺す。
 一撃、たった一撃で魔物は動かなくなった。地面が血に染まる。


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