V 「えーと、定番的な質問で悪いが、じゃあ男が好きなのか?」 「ふふふ」 「待て!」 「定番な質問出来たら定番じゃない返答で返すべきだろうが」 シェーリオルの飄々とした返答に、アークは定番的な質問はするべきではなかったと後悔する。 「苦手ってどういうことだ?」 アークとしては興味のあることでもあった。現在仕事がない時はお見合い写真を見ているアークと、シェーリオルの年齢は近い。魔導師として有名すぎるシェーリオルだが、婚約を発表した第一王位継承者とは違い、一切の恋愛話が今まで風の噂でも流れてきたことがない。 「別に女性恐怖症とかではないから、普通に会話することもできるんだが――なんというか、女性全般に対して苦手意識がとれないんだよな。まあ、いずれ解消はされるとは思っているけれど」 「ふーん、じゃあ苦手だから恋人とかの噂話がリーシェには全く流れないのか?」 「そうなんじゃないか? 別に噂話に詳しくはないけど」 「その美貌で、恋愛話が立たないってのを不思議がっている貴族の奴が確かいたなぁ……」 嘗て、依頼を受けた貴族の与太話として聞いたことがあった。その時は特に気に留めなかったが、実際シェーリオルと出会うと、恋愛の噂が流れないのを不思議に感じていた。 「へー恋愛話ってのは会話のネタになりやすいだろうからな。そういうことで、俺は今まで付き合った女性はいない」 「成程な。そういや次いでだからヒースはあるのか?」 「何が次いでなのか、腹立たしい所ではありますが、あると思っているのですか?」 何をあたり前のことをと、髪を流すように手でふれ風に靡かせる。その姿がやけに様になっていた。 「お前の性格じゃいないな」 「私のこの純粋無垢な性格を非難される覚えはありません」 「お前は悪意満載な性格の間違えだろう」 「暴言に対して私は主の似顔絵を描いて差し上げます」 「絶対変に描くだろう!」 「いいえ、めっそうもない。絶世の美形にして差し上げます」 「嫌がらせ過ぎるだろ!」 「実物を見た時の相手の落胆ようは想像するだけで口元がにやけます」 「性格悪すぎだ!」 「私のこの素晴らしい性格がわからないなんて可哀想な主」 二人のいつも通りの会話を傍らで腹を抱えてシェーリオルが笑っていた。その姿さえ様になるのは流石王子様といったところだろうか。 「お前らの会話は面白いな。そうだ、仕事の邪魔をするつもりないから同行しても構わないか?」 「リーシェなら構わないけどな、万が一死にそうになっても俺は助けるつもりはない」 「俺は俺が死にそうになる場面を想像できないから問題はない」 それは、シェーリオルの自分自身の腕前に対する自信であった。 「だが、リーシェは確か……魔石を魔族の少女にあげたんだろ?」 「あげたというより返したが正しいと思うけどな」 シェーリオルは肩をすくめる。 「まあ、レインドフとかの相手をしない限りは大丈夫さ。魔石の予備も今回は持ち合わせているしな」 魔石の数が多いのは、魔導を扱う際に砕け散っても大丈夫なようにだ。それだけではない、腰にはこれまた一目で高級品だとわかるサーベルを携えている。 「まぁ、リーシェなら魔導使えなくても余程の相手じゃない限りは問題ないんだろうけど」 「そういうことだ」 「よし、リーシェ。魔物討伐が終わったら俺と戦おう」 「だから断るって。レインドフと戦う日は一生来ない。来させない」 何が何でもシェーリオルと戦いたいアークと、何が何でも戦いたくないシェーリオルであった。話は平行線のまま終わる。 魔物が出るのは、街外れの森と周辺住民から聞きだし向かう――社交的な笑みで近づくシェーリオルに敵はいなかった。 「……」 森林浴に最適な場所だなとアークは密かに思う。魔物さえ出没しなければ、カトレアを連れてきて上げたかった。 アークに限らず、レインドフ家の面々はカトレアだけには甘い。 [*前] | [次#] TOP |