] 少年もホクシアに続こうとするが―― 「少年待って!」 ラディカルが引き留める。踏み出そうとした脚を止め、ラディカルの瞳を見る。 あの時と変らない優しい瞳。唯一人の恩人。 「少年の名前はなんていうんだ?」 「……ルキ!」 少年――ルキは叫ぶ。ラディカルにしっかりと届くように。あの時答えられなかった名前を。 「そっか、ルキ。いい名前だな」 はにかむラディカルの笑顔をこの目に焼き付けるように凝視したのち、ホクシアの後に続く。 そのままホクシアとルキは魔法を使い海の上を歩く。 海の上を歩く手段の無い人族ならば、二人の後を追うことは叶わない。 アークはもとより目的を達成した。二人を殺す為に追いかける必要はない。 最も――誰かから依頼されれば話は別だ。依頼されれば次は殺意がなくとも殺す。 強風は未だ止まない。風に足をとられることもなくヒースリアはアークの隣に並ぶ。 「全く、面倒なんだか簡単か判断に迷う変な依頼だったな」 「そうですね」 カサネ・アザレアの真意は読めない。 「それよか、リアトリスの機嫌が悪そうだ」 「せっかくのシデアルでしたからね」 ホクシアの姿が遠くなるにつれ、強風の威力は弱くなっていく。 魔物は立ち去ったのか、それとも退治されたか、人族を退治したか。 「何かお土産みたいなの落ちていないか」 瓦礫と化したニーディス家を勝手に漁り何かいいものがないか探す。しかしあらかたルキと魔物に、そしてホクシアに破壊されたのだろう。目ぼしいものはなかった。 「じゃ、眼帯君。俺らの仕事は終わったんでこの辺で」 「あ、あぁ」 「その間抜け面最高に似合っていますね」 「腹黒執事。お前人を侮辱するの得意だよな」 「えぇ」 そんな会話を短く交わしラディカルと別れる。 ラディカルはその後も暫くニーディス家だった場所を眺めていた。悲痛な悲壮な表情で。 シデアルの繁華街へ向かうと、そこが数時間前まで繁華街だったとは思えない状況だった。魔物が生々しく破壊していった跡が残る。 「あー、主発見!」 リアトリスとカトレアは辛うじて残っていた建物の中で街の人たち数名と一緒にいた。 「仕事終わったから帰るぞ」 「全く聞いて下さいよーいきなり魔物がやって来て。買い物がこれしか出来ませんでした」 両手いっぱいに紙袋をぶら下げるそれに説得力はなかった。 「……買い物早いな」 「気に入ったものは一通り買いましたからね。買い物袋死守するのに全力を尽くしました」 「入らぬところ全力出すなってか、死守してねぇだろ」 「あはは、ばれちゃいましたー」 笑いながらリアトリスは惨劇を目の当たりにしたとは思えない明るさでアークと会話をする。その後ろに恥ずかしそうにカトレアが控える。 「あ、じゃあ私らはそろそろ帰ります。また今度お茶しましょうね!」 一緒にいた街の人たちに挨拶をしてからリアトリスとカトレアは主の後を歩く。 「これでもし狙撃されそうになっても主が盾になってくれますね」 「それ、以前ヒースにも言われたぞ」 しかも真新しい最近だとアークは苦笑いする。 「仕方ないですよ。私とヒースは主を虐めるのに全力を出しているのですから」 「それは全力出さなくていい」 「では、死力を尽くしているのですから」 「かわらねぇよ」 「まぁどうでもいいですけど」 「お前段々ヒースに似てきたよな……」 「そうですか? 私は元々こんな性格ですし」 「いや、昔はもっと刺々しかった」 リアトリスとカトレア二人がメイドとして雇った当初をアークは懐かしく思う。 「ヒースも刺々しかったじゃないですか、というか私よりかなり」 「……確かに」 リアトリスとカトレアを雇った二年後、アークはヒースリアを執事として雇った。その当初をやはり懐かしく思う。 「それより主、今度カサネ・アザレアの元へ報告に行く時は主一人で言って下さいね。私はもう顔も見たくないので」 「……わかったよ」 「主が素直に了承してくれるなんて、明日は隕石がレインドフ家に直撃しますね。……直撃しないでしょうか?」 「そのしてほしいな、みたいな声止めろ!」 「残念」 心底残念そうにするヒースリア。何時ものやりとり。 [*前] | [次#] TOP |