零の旋律 | ナノ

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「じゃあリーシェ王子。お前は何故此処にいる」
「そりゃあ、魔物の調査」
「またあの策士様のお使いか?」
「そっいうこと」

 策士の名前が出た途端、露骨にヒースリアが顔をしかめる。露骨に嫌いすぎだろとシェーリオルが苦笑いする。

「俺は別にカサネの頼みごとなら聞くしな」

 その言葉がやけに上機嫌に聞こえる。今にも踊りだしそう――とまではいかないが、それに近い機嫌のよさだろう。

「何かいいことでもあったのか?」
「さぁーな」

 テンションも僅かばかり高い気がしてならなかった。何かあったなと思いつつ、それ以上尋ねることはしない。

「主、提案があります」
「何だ?」
「私は帰宅してもいい気がするのですが」

 ヒースリアの言葉に、何故だとアークが問うと、それくらいのこともわかっていただけないとはと文句を言われる。

「私がいなくても、此処に丁度いい人がいるじゃないですか」

 視線はシェーリオルへ向く。

「俺?」
「主が仕事に時間をかけて倒れたらリーシェ王子に引っ張ってもらえばいいじゃないですか、我ながら明暗だと思うのですが」

 つまり、アークに同行するのは嫌だから帰りたいと申していた。

「なんでリーシェなんだよ」
「私の代わりにピッタリじゃないですか」
「は? 何か共通点でもあっ……っておい、お前まさかお前と同様シェーリオルも顔立ちが整っているからとかいうんじゃないよな?」
「以心伝心ですか? 気味が悪いです」
「正解かよ!」

 ヒースリアの意図がわかったら、わかったで気持ち悪がられるアーク。どうしろというのだと内心でため息をつく。ヒースリアを雇ってから心労が増えた気分になるアークだが、多分事実だ。

「というわけでリーシェ如何です?」
「いや、如何ですと言われても困る。第一レインドフと一緒にされたら何時襲われるかわからない」
「主戦闘馬鹿ですものねえ」
「俺は戦闘狂じゃないからな」

 アークは、その瞬間あからさまに残念な顔をした。機会があればいつ何時だろうとシェーリオルと戦いたいと心の底から思っている証拠だ。

「それにしてもリーシェはほんと、王子って言われないとわからないような格好しかしないよな」

 祭典があった時とは違い、上着を着崩し肘付近で留めている。白のワイシャツは第三ボタンまで肌蹴ている。ネクタイは結ばずに右側を左にあるブローチで留め流しているだけだ。そのブローチは赤い――ガーネットのような魔石がついている。その魔石を中心に黄金に輝く小さな魔石が無数に飾りである。袖口からは金のリングが数個見え隠れする。それにもやはり魔石がついていた。一目で高価な魔石だと判断出来る。他の部分にもちらほら魔石が確認できた――代わりに、髪留めとして使われていた魔石がない。

「その辺のホストみたいですよね」
「次から次へと女を口説いてそうだ」
「女性を手玉にとって弄んでいそうですよね」

 ヒースリアの毒舌は何もアーク限定ではない。

「おい、王子を前にして言う言葉かよ」
「事実は否定できませんから仕方ありません。事実はいずればれるものですよ?」
「その場合、何の事実がばれるってんだ」
「女性を次から次へと手玉にとっているということです」
「嘘を事実にするな。それに、一つ訂正しておいてやる、別に俺は女好きじゃないし――女は苦手だ」
「へ?」
「は?」

 アークとヒースリアの目が点になる。今、狙撃でもされたらアーク・レインドフの首が簡単に取れそうだ。


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