零の旋律 | ナノ

詐欺師推測


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 祭典から一週間後、アーク・レインドフとヒースリア・ルミナスは王都から少し離れた街“イリティア”へ船で向かっていた。

「全く。主と同室だなんて、リアトリスと同室になるより最悪じゃないですか」
「その基準ははたして如何なものなのか判断がつかないぞ」

 現在リアトリスとカトレアはレインドフ邸で留守番をしている。大人しく留守番をしているかは謎だが。
 アークは仕事をする時、軽い気持ちで珍しく観光で行くか? とリアトリスとカトレアを誘ったが、リアトリスは首を横に振った。行かないというのなら、無理強いをするつもりはない。

「しかし、部屋がないなんてそんな馬鹿なことがあるんですねぇ。私が珍しく料金を二倍出すといったのにもかかわらず」

 受付にて、船は生憎と満員ですと言われ、アークとヒースリアは仕方なしに同室を取った。
 その際のヒースリアの嫌な顔はむしろ笑えてくるほどだった。何せ、普段は自身の懐からお金を出すことをしないのに、この時ばかりは率先して払って別室にしてもらおうとしたほどなのだから。

「仕方ないだろう」
「しかし、主。此処の船が満員になるなんてこと、ないと思いますけどね」
「あぁ、それには同意だな。人の気配も少ないし」
「気配だなんて常日頃から気を張らなければいけない主には同情しますね」
「同情って思ってもないことを口にするな」
「では同上」
「意味わからねぇから!」

 何時ものやりとりをしつつ、ふと思い出したことを問う。

「なぁヒース」
「哀れな主なんですか」
「それ嫌だから止めろ。祭典の時、シェーリオル王子が狙撃されそうになったのを防いだのはお前か?」
「時間の無駄なことを聞くのが好きですね」
「はっ、そりゃそうだ」
「時間の無駄です」
「繰り返すな」
「では、主と一緒にいても至極つまらないので、寝ます」

 ヒースリアはベッドの上に横になりアークを手で追い払う。部屋から追い出されたアークは、甲板をふらつく。やはり、満席だと言われたわりに人が全然いないと疑問に思いながら。
 イリティアに到着し、船から降りる。潮風は海を眺めずとも、海が近いことを実感させてくれる。天気は晴天だ。

「よく寝ました。これで寝起きに見た顔が主でなければ最高なのですが」
「本当、お前は二言余計だよな」
「仕方ないじゃないですか。それが私のうりなのですから」
「笑顔で言うな、気色悪い」
「私のこの美顔を気色悪いと称すとは、主はゲテモノが好きなのですね」
「そういう話じゃないだろ」
「え? 違いましたっけ?」

 本気で首をかしげそうな勢いのヒースリアに、毎度のことながらアークは呆れる。もはやため息も出ない。
 イリティアへ来た目的は魔物の討伐であった。始末屋としての本業とは多少なりとずれているとは思いつつ、アークはこの間の護衛と比べれば始末屋らしいと別段疑問には思っていない。
 それに――魔物には仕事抜きにしても多少は興味を持っていた。
 魔石を狙う魔物が出没して、イリティアに住まう貴族や魔導師を襲っている。犠牲者が何人も出て次は我が身かも知れないと不安になった貴族がアーク・レインドフへ依頼した。

「さて、魔石を狙う魔族ってのはなんだ」
「俺にしては魔石を狙うって時点で疑問だよな」
「そうだよなぁ」
「あぁ。大体魔石は魔族であり、魔物は魔族に従うものなんだろ?」
「なら、魔物が魔石を襲うってのは――まぁ一種の魔族を守るためでもあるのか?」
「それとも魔物が魔族に対して下剋上をしているのか、そういったところだろうな」
「……毎度のことだから、突っ込むのも面倒になり放置していたが、問おう」
「何だ?」
「何故此処にいる、シェーリオル・エリト・デルフェニ!」
「だから、リーシェでいいって」

 ナチュラルに、その場に溶け込んでいたのは仄かに甘い香りを薄い金髪から漂わせ、優美な雰囲気を全身から醸し出しヒースリアとは別の意味で人目を引く人物、シェーリオル・エリト・デルフェニ。
 リヴェルア王国第二王位継承者――王子でありながら、魔導師として高名な人物である。それだけでなく、身体能力も高く、頭も切れるというとんでもない人物であった。


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