零の旋律 | ナノ

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 ラディカルは、月明かりに照らされた人気のない道を歩く。自分自身に対して苛立ちが募る。

「(何故、俺はあの時カサネ・アザレアの秘密を暴こうとした)」

 自問自答を繰り返す。

「(人族に紛れている魔族にとって、正体が露見することを何より恐れている。そんなこと俺が身をもって知っているはずなのに)」

 ラディカルはずっと眼帯で瞳を隠し人族と偽ってきた。魔族だとばれた途端迫害視され、仲間だと思っていた人たちから裏切られた。
 それなのに、カサネ・アザレアの正体をラディカルは暴く道を選んだ。

「策士、カサネ・アザレア……あぁそうか、だから俺は暴こうとしたんだ」

 得心がいったわけではないが、ラディカルはカサネの正体追及せずにはいられない理由を見つけた。

「策士という地位にいながら、“魔族”に対して何もしなかったからだ」

 第三王位継承者の側近、それほどの地位についている人物であれば、魔族に対して何らかの救済策が取れたのでは――そう思ってしまったからこそ、ラディカルは問わずにはいられなかった。

「わかっている、わかっている……例えカサネ・アザレアが何かしたいと思っても容易じゃない――下手すれば自分の正体が露見する羽目になるリスクが伴っていることくらい」

 それでも、思ってしまった。

「俺だって、魔族から逃げて――人族として暮らしてきたんだ。カサネのことをとやかく言える身分じゃないってのに……な」

 わかっていても、我慢が出来なかった。魔族の現状を痛いほど知っている。身をもって知っている。
 目を閉じれば脳裏にあの時の光景が焼きつく。
 仲間だと思っていた人族に、自分の正体がばれた時の、彼らの反応が今でも忘れられなかった。あの時の光景を思い出す度に、金の瞳から涙が零れそうになる。


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