零の旋律 | ナノ

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 シェーリオルの力に耐えきれず魔石が一つ、また一つと砕け散っていき輝きを伴いながら消える。

「わかっているよ。けど、まさかエレも態度を変えるとか思っているんじゃないよな?」
「そんなわけない。けど、エレを不安にするような真似はしたくない」
「魔族うんぬんより、さらに不安にさせようとしている奴が何を言っている」
「……。四分の三」
「?」
「四分の三、俺は魔族の血を引いている。だから、種族的には魔族に殆ど近い」
「逆、じゃないんだな」

 金の瞳ではない、両目とも真っ黒さを見れば、カサネの魔族の血が薄いように思える。けれど、実はその逆でカサネは四分の三、魔族の血をひいていた。ラディカルより、血は濃い。

「瞳が気になるか?」
「別に、気になりはしないけどな」
「シオルなら、いい」
「じゃあ聞く」
「本来の瞳は金色だ。けど――魔力を全て封じ込めることで、瞳の色を黒に変えている。だから、瞳が黒の間は魔法を一切使えない。その代わり、魔族だと露見する恐れもない。最も――いくら魔力を封じても、全てを封じ切ることが出来るわけじゃないから、外見の成長が遅いんだけど」
「成程な。しかし、なら何故眼帯少年と戦う時、カサネは」
「魔法を使えるよう、解除することは一瞬で出来る。けど、魔力を全て封じるのには大体一日かかるんだ……一日も使っていられない」

 金の瞳を隠してエレテリカに近づくために、魔力を封じた。魔法は一切扱えない。魔法を使える為には、一旦解除する必要がある。けれど、再び魔力を封じるには時間がかかる。その間に魔族の血をひいていることが露見する可能性は上がる。そうなればエレテリカに迷惑がかかるのは明白だ、とカサネは推測している。だからこそ、この場で魔法を使う事はしなかった。

「だからか」
「そういうことだ」

 治癒術を続けているかいあって、少しカサネの呼吸が落ち着いてきた。もっと熟練の治癒術師なら治療が早い。歯がゆい思いだった。

「シオルが治癒術を扱えてよかった。流石のこの怪我はきつい」
「だが、俺の治癒術を扱う腕前程度じゃ……」
「関係ない。それに、シオルは完璧な治癒術師より戦闘に特化している方が俺はいい」
「そうかい」
「俺は……他の治癒術師を信頼していない。怪我を治させるつもりはない」

 それは、シェーリオル――シオルと呼ぶ彼には信頼を寄せている証拠。策士が唯一仲間に選んだ魔導師。

「光栄なことだ」

 温かい光が、冷え切った心にまで温かさを齎せてくれるようだった。

「だが、やっぱり治癒術師を呼んできたほうがいいだろう。軍の治癒術師が嫌なら、レインドフにでも頼めば一人や二人いるだろ?」

 シェーリオルは立ちあがり、治癒術師を紹介して貰おうとしたが、それをカサネの声が制止する。

「いらない!」
「何故だ? 俺は治癒術師じゃない、お前の怪我を完全に治すことは難しいぞ」
「それでも、構わない。シオルの治癒術だけでいい」

 強固な瞳は何者にも意思を揺らすことは不可能。

「はぁ、わかったよ。その代わり時間ロスは妥協しろよ?」
「仕方ないさ、それくらい」
「では、お姫様せめて場所だけでも移動しよう」
「だーれが姫だ。一目につかない場所なら移動しても構わない」

 冗談めかしたシェーリオルの口調に眉を吊り上げながら――それでもカサネは笑う。怪我など忘れたように、一時の安らいだ笑みを見せた。


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